偶然のこと。
今回から手伝うことになったクリニックの院長が星光の後輩だった。
仕事の話を終え、柴田先生など教師談義に花を咲かせた。
が、後輩だからといって先輩面することなど一切ない。
何人か後輩を顧客とするが、決まって必ずわたしは敬語を使う。
学校が一緒など単なる偶然。
仕事をするという必然の前にそんな偶然がしゃしゃり出てでかい顔をする謂われはない。
偶然はその立場を弁えて話題の末席に佇むべきで、必然を遮ることなどあってはならないのだった。
夜7時、業務の最終地点は昭和町だった。
天王寺が目と鼻の先である。
しかも金曜。
今日もほんとうに暑かった。
一昔前なら阿倍野の正宗屋へと直行しビールをがぶ飲みしていたことだろう。
が、余生を過ごす身と自身を位置づけ、あとは心静かに過ごすと決めもう一ヶ月になる。
アイスを買うためコープに寄り道しただけで、わたしは最短経路で家へと帰った。
夕飯の支度を整えながら家内が言った。
暑いのに外回りばかりして大丈夫?
いま面白いように顧問先が増えている。
だから毎日、楽しくて仕方がない。
そう、わたしはいまとても充実していて、天職を得た喜びと仕事愛が深まるばかりの毎日を過ごしているのだった。
もちろんあれこれたいへんではあるが心静かであれば精神が強靭になるのだろう。
頑強であればなんだって楽しい。
若い頃には露も知らなかった。
残り時間はあと僅か、学ぶことばかりが増えていく。