顧客から顧客へと渡り歩きつつ、折々途中経過に目をやった。
東東京大会の決勝は朝の10時からで、仕事の予定も入っていたから注視するという訳にはいかなかった。
序盤から劣勢で4点ものビハインドを負うことになった。
が、強打に定評あるチームであるからまだ分からない。
案の定、4回裏に主軸にホームランが出て4対5で勝ち越した。
そう知って、わたしは公衆の面前で声を漏らして歓喜した。
顧問先の事業主の息子さんが強打のチームの4番を張っていた。
大阪の親元を離れて3年、かつての強豪校が息を吹き返し、あと一歩で甲子園というところにまで迫っていた。
わたしは身内を応援するも同然だった。
回を追うごとに強打が威力を発揮して点差が開く。
そんな楽勝ムードにひたった矢先、iPhoneでしばし見入った5回表に勝負の分かれ目がやってきた。
え、まさか。
年に一、二度あるかないかといったエラーが重なって、追いつかれてまもなく突き放された。
ミスというより相手の迫力に呑まれてそうなったとしか言えず、そのしどろもどろな守備に目を覆うしかなかった。
浮き足だった相手に畳み掛けるように打者はボールを叩きつけ、強打のチームは守備に隙があったのか好き放題、手玉に取られた。
基本中の基本の出来栄えで互い人生を賭して挑む一戦の明暗が分かれた。
なんと勝負の世界は厳しく、かつ分かりやすいのだろう。
仕事を終え、わたしはジムへと向かった。
トレーニング後、家内が留守なのでガーデンズに寄って値引きされた肉など買って帰った。
せっかく飲まずに筋トレをしているのだから、筋肉がより強くなるよう積極的にタンパク質をとるべきだろう。
遅まきながらそう気づきたっぷりと肉を食べ、そして意識が明瞭であったから夜も仕事に励んだ。
わたし自身は大一番には縁遠い。
人生を賭して挑む一戦などこの先一切訪れることはないだろう。
が、そうであっても基本に忠実に。
当たり前のことを毎日こなして繰り返す。
それしかできない。
それが一番の理由であるが、わたしの信仰はこの日さらに分厚くなったように思う。