明石での業務を終え、さあどこかで夕飯を食べようと思ったところで家内からメッセージが届いた。
午後6時過ぎに新大阪に着く。
荷物が多いので迎えに来て、とのことだった。
それでわたしは快速電車に乗ったまま新大阪へと向かった。
駅を降りごった返す雑踏のなかで電話対応などしているうち、時刻はいつの間にか午後6時を回っていた。
わたしは小走りになって汗をふきふき、22番ホームへと急いだ。
8号車の降り口に着いたと同時、のぞみがホームに入ってきた。
めちゃくちゃ暑い。
ホームに降りてそれが家内の第一声だった。
わたしは大きく頷いた。
長野の地で3泊4日を過ごしその涼しさに慣れたカラダに、大阪の炎暑はかなり堪えるようだった。
並んで歩きながら、人間にとってどれだけ環境が大事かと家内は熱弁を奮った。
これだけ暑いと心が歪む。
そりゃ誰もがつっけんどんになるだろう。
ああ、長野はよかった。
涼しくて人は優しく壮大な自然に四方を囲まれ癒やされた。
今度は上高地に行こうとの話になって、やがては長野に住もうとの計画まで持ち上がった。
よい旅ができて何より。
わたしは満員電車のなかで身を縮め、家内の二万語に耳を傾けた。
家内が繰り返して言った。
人にとって環境が大事。
長野で過ごせば、都会でマウントを取り合っている人たちがアホに思える。
あなたも長野で仕事すればいい。
長野で過ごした数日を振り返る家内の表情は喜びに満ちていた。
このところ週末にも業務が入ってわたしは遠出から遠ざかっていた。
数週間、家にこもって過ごす窮屈さと不健全に思い当たり、今更ながら居心地の悪さを覚えた。
ああ、長野。
家内が見せてくれる雄大な山々や艶々とした緑の写真に見入って、次は長野とわたしも心を決めた。