時系列をたどると話が非常に長くなる。
ここはひとつ回り道をせず話を端折る。
ヒースローを発って金曜の夕刻、仁川空港に到着した。
旅の最後を仁川の街で飾る。
それが当初の予定だった。
おいしいものをたくさん食べ、英気を養う。
そのつもりだった。
だから行きと違って帰りは空港の近くではなく仁川の繁華街にホテルを予約していた。
しかし今回、わたしたちは空港から一歩も外へと出られなくなってしまった。
ヒースローでの搭乗手続きの際、事情を理解してくれたアシアナ航空の心優しい男性職員がイミグレーションオフィスに掛け合ってくれたが、結局、韓国への入国は認められなかった。
仁川に着いたはいいが、帰国の便まで丸一日ある。
さてどう過ごすか。
アシアナ航空のラウンジを利用するにせよ、そこが夜通し開いている訳でもない。
あれこれ休憩スペースや仮眠ルームなど空港内の施設は充実しているようだが、そこで過ごすことは野宿同然であり、家内は持ち堪えられないのではとの危惧を免れなかった。
だから出国フロアにトランジット専門のホテルがあると分かってからは、藁にもすがるような思いでネットを通じ予約を試み続けた。
満室との表示にもめげず、飽くなき執念で時を置かずトライし続け仁川空港に着いてからも同様に励んだ。
iPhoneに表示される満室との表示を見続けながら結局、足はホテルへと真っ直ぐ進んでいった。
高くついても構わない。
事情を話し直談判して状況を打開する他なかった。
家内を外に待たせ、わたしは勢い込んでフロントにて部屋を求めた。
フロント女子の答えは実にあっさりしたものだった。
部屋はあった。
そしてなんの問題もなくスムーズにチェックインが果たせたのだった。
案ずるより産むが易し。
無理を通すつもりだったからわたしは拍子抜けしてしまったが、この拍子抜けにはとろけるような心地よさが伴った。
シャワーがあってベッドがある。
あとは命が揃えばそれで十分なのだった。
荷物を置いてまずはフードコートで食事した。
続いてわたしたちは空港内にあるマッサージ屋mabeへと足を向けた。
旅のプロセスを振り返れば、想像以上に疲れていて当然だった。
背中から施術の手はやがて足へと向かい、わたしたちはとろけるような心地よさにひたり続けた。
最後はマッサージ。
結婚25周年を記念しての旅においても実に象徴的に夫婦の定番が締め括りを飾った。
なんとかハッピーエンド、そう言っていいのだろう。