息子がいると家に光がともって家内は俄然活気づく。
豪勢な食事をこしらえ、あれこれ理由を考え一緒に動く。
帰京前日、西北のジムで泳いで筋トレしてきた二男にハンドルを握らせ、家内は本町までと行き先を指示した。
長男にしたことは二男にし、二男にしたことは長男にもする。
その昔、長男のスーツを樫山でオーダーした。
だから二男にも、となったのだった。
結構安く、一度オーダーすると全国の店舗で同じサイズで仕立ててもらえる。
便利なことこの上なく追加する度、初回購入時の思い出がよみがえる。
それに伴い登場人物として家内の面影も彼らの意識に浮上する。
そんなオマケも付随しているのだった。
頼もしくなった二男の背を眺め、家内は感慨とともに思った。
男は背中。
そこにすべてが表れ出る。
夕飯は西宮の名店わびさびを予約してあった。
おいしい焼き鳥はいろいろあるだろうが、わびさびに並ぶ店はないだろう。
筋トレしたからと息子もノンアルで家内だけがビールとワインを楽しんだ。
わびさびの技をたっぷり堪能し、最後は焼きおにぎりと鶏雑炊とカレーうどんでしめてお開き。
勘定を済ませて店を出た。
ああ、朝が来れば息子が東京へと帰ってしまう、そんな寂寥を夫婦それぞれに感じ取った瞬間だった。
明けて朝、家内が豪華な朝食を作り弁当も準備した。
わたしは自分の分としてイギリスで買った服も含めてぜんぶどっさり息子に持たせた。
わたしが着るより服も喜ぶ。
わたしもそれで嬉しく喜びの最大値を考えれば、そうするのが間違いなく適切な判断だった。
往来に出てその背を見送った。
やがてその背が見えなくなって、わたしたちはいつもどおりの日常へと回帰した。