忙しさが増すと息抜きが欠かせない。
で、この週末、家内にそのアレンジを一任した。
わたしは言われた持ち物を持参して助手席に乗るだけ。
女房がいわば彼氏役を買って出てくれたようなものと言えた。
まず朝一番、家内おすすめのカフェへと連れられた。
注文してから豆を挽き始めるから時間がかかるが、これほど香りのいい珈琲はないだろう。
エチオピアとケニアの二種を頼み、どっちがどうとの判別はつかないが、なんというのだろう、フルーティーでジューシーで濃厚で華やかで力強く酸味が豊かといったワインのフレーバーを表現するときに使われるような言葉が次々と頭に浮かんだ。
珈琲のカフェインとアロマ効果で気分爽快となったところで店を出て、家内は奈良方面へとクルマを走らせた。
ちょうどこの日、長男が出張でギリシャへと飛び立った。
その旅の無事を願ってうちのおかんに手を合わせようと家内は言うのだった。
墓まわりをきれいにし墓石を洗い線香をあげて花をそえ、手を合わせた。
しばしおかんと言葉をかわし、これで気持ちが更に晴れ、忙しさでざわついていた心が一気静かに落ち着いた。
霊園を後にし家内はそのまま奈良市街へとクルマを進めた。
割烹にし田という店を予約したとのことであったが、家内が選んだのであるから間違いない。
予想したとおり割烹にし田は一品一品が素晴らしく、全部ひっくるめて素晴らしく、おいしいものに耐性を備えるわたしたちであったが際限なくほっぺが落ち続けた。
そこからこの日の宿となるJWマリオットまではクルマで10分ほどだった。
早めに着いたがラウンジでくつろいでいる間に用意が整い部屋へと案内してもらえた。
広々として木の温もりと香りが感じられ、心癒すのにうってつけの部屋だった。
のんびり過ごして夕刻、日差しが少し和らいだところで隣接する蔦屋書店をぶらついてお茶して過ごし、寄る年波、夜になっても空腹が訪れないのでホテルへと戻ってラウンジで軽く夕飯を済ませ、運動も必要だろうと夜はプールで泳いだ。
とても静かな夜。
水中の照明は柔らかく、そこを夫婦でただ行ったり来たりし、やがて心は完全な形で整った。