業務のあと雑談になった。
仕事の話より時に他愛のない話の方がためになる。
事業主の奥さんが言った。
60歳を過ぎるとあまりにも差が歴然となる。
だから昔のままの付き合いが続くと思わない方がいい。
どうしても顔ぶれに変化が生じる。
勝者総取りとはよく言ったもので、うまくいく家はほんとうに全部がうまくいく。
仕事の業績は伸び従業員に恵まれ、子どもたちもしっかりとした仕事について経済的に困らず、そしてよい縁談にも巡り合う。
そうなると昔のよしみの付き合いもぎくしゃくとし始める。
特に女性は穏やかではいられない。
普通に話していても自慢だ嫌味だと混ぜっ返されれば面倒で、いっそ会わずに済まそうとなって疎遠となる。
あるいは張り合おうと躍起になるような人もいる。
自然体で付き合いたいのに暑苦しい。
だから自然と距離を置くことになる。
そんな話を聞きつつ、わたしは頭のなかで自分の周囲を見渡した。
眼前にする事業主一家のように勝者総取りの星があっちにキラキラ、こっちにキラキラ燦然と輝き、一方で、その周辺には深い闇が横たわっている。
いま55歳だから60歳まではあと5年。
全てがうまくいくようにわたしはまだまだ頑張らねばならず、わたしが頑張ればすべてがうまくいくのだろう。
事業所を後にしてわたしは気迫に満ちていた。