充実の一日を終え、タクシーに乗ってホテルに戻った。
最後につかまえたタクシーの運転手がご高齢の方だった。
具合でも悪いのだろうか。
信号待ちの際、運転手はハンドルに身を突っ伏すような姿勢になった。
ケンチャナ?と声をかけると運転手は笑顔になって姿勢を戻した。
無理をさせてはならない。
わたしたちは以降、信号待ちの度に突っ伏す運転手を何も言わずに見守った。
部屋に帰ると時刻は午後9時を過ぎていた。
さすがに疲れ果てていたからわたしはベッドに横になった。
しかし、家内の体力は並大抵のものではなかった。
6階のスパに行ってくる。
12時までたっぷり入る。
そう言って部屋を出ていった。
わたしは少し休憩してからシャワーに入ってぐっすり眠るつもりだった。
そんな算段でうつらうつらしていると家内から連絡が入った。
すぐ6階へ来るべし。
岩盤浴の施設があるからそこで横になった方がいい。
いや眠い、今日はいい。
ラインを通じそんな押し問答を続け、断っても断っても催促の連絡がくるからついにわたしは観念した。
35階から6階に降り岩盤浴のスペースに行くとすでに家内はわたしが寝そべるスペースを整えてくれていた。
バカでかい岩盤浴の施設にほとんど人はいなかった。
高い天井を眺めて夫婦で横並びになって温かな岩盤に身を委ねた。
昔話に花が咲き、この岩盤がチェジュの溶岩石でこしらえたものだと知って、カラダに伝わってくる温かみが一層増した。
ほどよく全身が温もって、もっと熱い岩盤浴ルームへと移動した。
そのようなことを繰り返し、やがて背中から首にかけてのこわばりがふんわりと溶けていった。
わたしの女房は素晴らしい。
岩盤浴で別れ、スパのサウナと水風呂に交互に入って爽快感を覚えつつ心からそう思った。