夕刻、ホテル前でタクシーを降りた。
朝と昼にたっぷり食べたので夕飯は入らない。
では、先にプールにでも入ろう。
家内の提案に従うことにした。
支度するため部屋へと戻って扉を開け、息を呑んだ。
目に飛び込んできたのは海に浮かぶ無数の漁火だった。
あまりにも美しく、それが予期せぬことだったから胸が震えた。
どこかへ出かけるなど勿体ない。
プールのあと階下のショッピングモールで何か買って部屋で食べることにした。
8階に降りると風が冷たいからかプールに人影はほとんどなかった。
楕円の形をしたプールの端から端まで長径にして25mといったところだろうか。
そこを平泳ぎで女房と何度も何度も往復して過ごした。
雑談しながらジョギングするかのように軽く泳いで、それでも結構な運動になった。
いつしか漁火の数が増え、ホテルの建物に灯る部屋の光も増えていった。
わたしたちはその美しさの渦中に紛れ込んでいた。
なんて贅沢な時間なのだろう。
夫婦の歴史に刻まれる名場面のなかに身を置いて、この地への愛がただただ深まっていくのをわたしは感じた。