食事する時間はない。
姫路での業務を終え新大阪で乗り換え、そのまま東京へと向かう。
そんな連絡が息子から入ったからその乗り換えのタイミングに合わせ、わたしは事務所から新大阪へと移動し、家内は家から同じく新大阪へと向かった。
もちろん家内は手ぶらではない。
ヨガのあと神戸でエステを受け、息子の会社の方々への差し入れを神戸阪急のフロインドリーブで買い求め、家に戻って息子に手渡す弁当をこしらえた。
新米を炊いて梅干を入れたおむすびを握り、唐揚げをわざわざ自分で揚げた。
ありふれたメニューであるが息子が特に好んだ日常食を母は忘れる訳がないのだった。
夕刻5時半。
新幹線の乗り場の改札にいる、とのメッセージが届いた。
在来線から新幹線乗り場へと改札をくぐると、そこにわたしたちの長男が立っていた。
大阪の支店長もご一緒だったから、わたしたちは深々と頭を下げ、「ほんとうに活躍目覚ましい若手のホープですよ」という褒め言葉をナイーブにも真に受けて、そうですかそうですかとわれらバカ親はお辞儀の角度を更に深めた。
帰社する支店長の背を見送り、わたしたちは息子の後について東京行きのホームへと並んで歩いた。
ホームで息子と並ぶ家内の姿を写真に撮り、久しく見ないほどの家内の笑顔をそこに見て息子愛の深さを思い知った。
17:46発の新幹線に息子が乗って席に座った。
わたしたちは車両の外から手を振った。
近づき過ぎだと車掌さんからたしなめられ、一歩下がるも同じく盛んに手を振った。
いよいよ発車。
照れているのかずっとパソコンに目を落としていた我らの息子が顔をあげこちらを見た。
夫婦二人の手の振り幅は更に大きくなった。
わずか15分であったが充実の再会だった。
渾身の作である弁当を息子が食べる。
美味しそうに食べる姿を想像し、家内は満面の笑みを浮かべたままだった。
息子たちが共通のテーマ。
親と書いてバカと読み、両親となればダブルでバカ。
それを晴れがましくも実践した15分だった。
帰途、壱岐のポスターを車内で見て今度そこへ行こうと思い立ったとき、電車が立花駅に停車した。
途中下車してご飯を食べようとついでに思い立ち、駅を出ながらネットで調べて店を選んだ。
家内はビールでわたしはノンアル。
推し活の宴は、結構な盛り上がりを見せた。