KORANIKATARU

子らに語る時々日記

化けの皮

子らが通う芦屋ラグビーであるが、11月の兵庫県大会を最大の山場として、年間を通じ数々の交流戦が催される。
主催試合や招待試合などがあり、兵庫や大阪のクラブチーム所在地が会場となる。
端っこから端っこまで車でいくらもかからない狭いエリアに会場は点在する。
しかし、そんな小さなローカルな世界であっても、地域ごと多種多様な雰囲気が存在するのであった。

地域による違いは、言葉遣いに集約される。単語のチョイスが地域によって全然かけ離れているのである。
ことのほか荒々しい話法、言い回しをする地域がある一方、ナイーブなくらい何とも優しい言葉遣いの地域もある。
おおむね、大阪弁のまぶし具合で、その濃淡の差が生じるようだ。
大きな声を出すときに、大阪弁の度合いを強めれば、強い言葉になり、大阪弁を潜めれば、少しおっとり目の印象になる。

「ごらっ~、おまえら、いてこましてこっい」というのと、「おーい、みんな、しっかりがんばれー」というのは、同じ文脈で使える内容だが、響きは大きく異なる。
違う言語が行き交っているのに等しい。

激しい言葉遣いがもっぱらの地域であっても、父親勢は大半は静かに見守る傾向にある。
もちろん、凄い声を出す男性もいる。
決まって、そんな服どこで売ってるんと思うような昇龍刺繍のジャケットなどをお召しになっている。
衣服の購入先が見当もつかない、ということは、相手は全くの異文化に属しているということだ。

一方、激しい言葉遣いの地域の母親勢は、結構な数が、ぶっちぎりの独走集団、応援暴走族だ。
過激派猛虎党のお株奪うほどの「どぎつさ」である。

小津安二郎の映画に登場しそうな、静謐さを保ったまま応援する可愛らしいママが属する地域と、真反対、対極にある。
女性なのに雄叫び、野次り、相手チームを呵々大笑。
別に昇龍ジャケットなど着ているわけではない。ごく普通の身なりである。

だから、声援し始めるまでは誰が応援暴走族の「隊員」かなんて判別できない。
シャクナゲの花のように楚々と見えた女性たちが、試合始まるや、火を吹く怪獣に大変身。
というより、逆だ。
もともと火を吹く怪獣が、シャクナゲに「化けていた」に過ぎないのだ。

このことから、化けのコード(見せようとする外見)に沿って、女性を判断するのは大間違いであるという、人生の鉄則が引き出せる。

男子高出身者は特に心得た方がいい。
女性に対し少なからぬ幻想など持っていた場合、意のまま相手の化けのコードに誘導される。
誘導されたが最後、自分が激しく野次られ、痛罵されるというこっぴどい末路がお待ちかねと相成る。

毎日、恫喝され、かつあげされるような日々。
「絶句につぐ絶句」という日常。
永遠に醒めない悪夢。
オカルト映画ならいつかは終わる。しかし、火を吹きあなたの耳をつんざく猛獣は、あなたが息絶えるまで、もしかしたら息絶えた後も、あなたの生活を支配し、あなたを従え、君臨し続ける。
凶暴なおんぶお化けに取り憑かれたら、それは不治の病、もはや逃げる術はない。

こういった類いの女性は、あなたが知る気性の荒いどんな男性よりも、はるか上を行くのである。
男性の気性など軟式野球レベル。直撃しても死ぬほど痛いということはない。
かたや、それらの女性が放るのは、がちがちの硬球。
侍ジャイアンツの分身魔球に火の玉がおまけでつくような獰猛な球なのである。
エビぞりでジャンプし大回転の中から繰り出される魔球は、躊躇なくあなたの急所めがけ炸裂し、的が外れることはない。

交流戦などで一堂に会する際、束の間、異世界の小窓が開き、別世界が垣間見える。
小津安二郎の世界から小窓をのぞき、しばしの時間、火の玉怪獣にお目にかかれる方は、幸いである。
ちょいと怪獣映画をみたよ、というみやげ話得たくらいで済む。
ひるがえって、怪獣の国から、真逆の世界を横目で見る方は、どんな思いだろうか。
時刻が来れば、銀幕スクリーンはたちまち儚く暗転し、おんぶお化けの責苦が続く奈落へと舞い戻らなければならないのだ。
心底お悔やみ申し上げる。