KORANIKATARU

子らに語る時々日記

人の海

明け方、がら空きの2号線を通り事務所へ向かう。
車線上の電光掲示に8月4日淀川花火とある。
私にとっては、群衆襲来の不吉な予言みたいなものだ。

明日の土曜はここらの行き来に最大限の注意が必要だ。
大混雑に巻き込まれるとにっちもさっちもいかなくなる。

なにしろ50万人近くが来場するイベントである。
我が家と大阪市をつなぐ主要アクセス路が事実上遮断される。

人混みがめっぽう苦手である。
混雑に酔う、どころではなく、拒絶反応が起こる。
満員電車など、とても乗り込む気になれずホームに立ち尽くすことしばしばであり、あっちからこっちから人が銃乱射のごとく行き交う梅田など目に浮かべるだけで昏倒しそうになる。

淀川花火は、この世の混雑の全てを集約凝縮したと言えるほどの大混雑度合いを呈す。
向光性の昆虫が無尽蔵に湧き出るように、界隈を覆い尽くす。
往来はどこもかしこも、行き止まりの路地のあちこちでさえ、人の海に埋め尽くされる。

一度、子らに見せるという目的で、耐え難きを耐え見物に出かけたことはあった。
私にとっては戦時体験のようなものである。
夜空に浮かぶ花火などには特に何の感興も持てなかった。
それよりも、わんさかわんさか、これでもかと湧き出る群衆の多さに目を見張り、恐怖した。
何か一大事でもあったら、これはどうなるのだ。
何とか人通りの少ない道を嗅ぎ分けながら、人の背のあとをひたすらついてまわってほうほうの体で脱出した記憶が鮮明だ。

この人の波が動いたら、梅田の地下街で受けるプレッシャーどころではない。
踏みつぶされる、家族が離れ離れになる、向こうの通りにたどり着けない、ネガティブなイメージが駆け巡る。

人混みには近づかない方がいい。
あれは、一歩間違えれば荒ぶる大海と同じようなものである。
何かあったら、対処のしようがない。
危険極まりない、と知らねばならない。

静かな道をゆっくりのびやか歩く方が、はるかに心満たされる。