KORANIKATARU

子らに語る時々日記

暴力について(その2)

強調しておかねばならないが、今の大阪下町は全く異なる様相を呈する。
暴力はびこる場所は、教育熱が高くなる。
暴力の対象として虐げられる立場から自由になるには、勉強して身を立てるしかない、このような思考が皆を勉強に駆り立てる。
いまでは相当に優秀な層が、優秀な交友関係を背後にひかえ群居するようになり、町の景色を一変させた。
第一、人を脅しびびらせ身を立てるよりも、健全な人間関係のもとスペシャリストとして真面目に8時間働く方がお金持ちになれるのだ。
そこで育った者の誰もが、必修科目であった暴力について学ばざるを得ず、ある程度のたしなみを有さざるをえなかった。
使い途はあまりないけれど暴力に身を接することで培われる知性というものもあるのである。

暴力はたいへんに高くつく。
何よりも高コストだ。
半端な気持ちでは、暴力でせめぎ合い優位に立つことはできない。
相手と刺し違えるほどの腹がなければ、足元みられる。
それでもトップにはなれない。
勝ち抜いても上には上がいる。
暴力の行使者は否応なく暴力の被行使者でもあり、その緊張状態のなか時には猛獣のように威張り散らし時には小動物のようにプルプル怯え過ごすことになる。

下手に一人こづけば三倍返しどころでは済まなくなるお手付きもある。
覚えて置かねばならないが、こちらは軽くはたいた、こづいた程度でも、相手は一生忘れない。
相手の心のスクリーンには、はたいた相手の横顔をバットで叩きつぶすような映像や相手の背中を足蹴にし奈落へ突き落とすシーンが何度も映写される。
制御不能な憎悪の種を撒き散らすようなものである。
実際、相手を間違うと取り返しがつかなくなる。
後で泣いて詫びても、どうにもならない。

ゴッドファーザーという映画が何故世界不朽の名作なのかこの文脈で考えてみればいい。

失うものが何もない、このような立ち位置の方々だけが嬉々として暴力の競技場へ入場し戦果を上げることができる。
それ以外は、「抑止」のシステムを構築することを早くから覚え生き延びるしかない。
暴力の町に住めば暴力に対し謙虚になるのだ。

西宮というまま穏やかな土地柄にあって暴力について子らに教えそびれていた。
どこにだって行儀の悪い奴はいて、大抵は暴力についてその行使の難しさ、恐ろしさを親にも教わっていない。
不要かもしれないが対処法についての基本的な考え方は述べておくことにしよう。
小突く、叩く程度であっても自ら暴力奮うなど言語道断、恥ずかしいにも程がある。
「対処法」があるだけである。

何か暴力めいたことをされてもボクが我慢すればいいと受け流しそれで済むのであれば、柳に風という手も理屈上は存在するが、普通そのような受け身に出るとさらに餌食とされてゆく。
意識的に小出しに暴発することが必要な作法だと教えておかねばならない。
伝説の札付き、あのクニちゃんのように、切れて相手の膝頭をバットでたたき潰すということをマネしろと言っているわけではない。
これだと大爆発だ。
誤解してはならない。

ちょっとこいつ厄介だなと思われる程度で十分だ。
面倒くさい人間になることが、自分を守る上で不可欠な振る舞いになる。

店で不当な対応を受けたときにちゃんとクレームする、直接店員に言ったり、場合によっては同僚や店長に言う、他の客と連帯する、もしくは本社に掛け合う、社長を訪問して事情を説明する、程度によっては警察にも言う、らちあかないなら家にまで行く、といったようなことだ。
(あくまで打ち手をイメージするための例えである。お店でこんなことすれば面倒な奴どころか筋金入りのモンスターになってしまう。些細なことで店員さんを困らせてはいけない。)

不快な状況は放置すればそのまんま、鬱陶しいままである。
そのためには相手に分からせないといけない。
勝とうが負けようが直接抗議することがまず最初である。
その際、少し凄んで効果がなければ気取ってないで阿修羅の形相で大声出して相手に迫らねばならない場合だってある。
日本を除き、どこの国だって怒れば男子はでかい声を出すものなのだ。
手出しはご法度だが少しくらい景気付けに暴れたっていい。
後は誰かが何とかしてくれる。

相手が途方もないワルまたは複数なら。
この場合、直接向かえば飛んで火にいる夏の虫になりかねない。
ここは一つ、さっきの例え話の第2ステップに進み、「店長」や「本社」に訴える作戦だ。
関与者を増やしその力学のなか政治的に動き主導権を握ることを目指すのだ。

そんなことは卑怯だと、自分を責めることが最悪である。
こと暴力については相手のせいにするくらいでないとタマ取られてしまう。
そもそも相手が悪い。
ここでブレない限り、立派に面倒臭い人間になれる。

味方を増やすためには、普段の行いが大事だし、日頃の付き合いや交友関係の広がりがとても大事になってくる。
こいつは黙ってない、泣き寝入りするはずがない、手出ししたら後でしつこいややこしい、そのような状況を現出させることで、穏やか過ごすための鉄の抑止システムが機能する。

もし巨大な暴力に立ち塞がれたとしたら。
無数の人々が踏みつぶされてきた。
暴力に対する無邪気な不見識は軽蔑すべきようなものだろう。
お尻ぺんぺんだ。