1
二男のiPhoneにショートメールを送る。
西九条にある花壱というつけ麺屋が結構うまかったで、と。
即座に今度連れて行ってと絵文字付きの返信がくる。
返信者は二男に成りすました家内だ。
ラーメンを食べたことが明るみとなってしまった。
口は災いの元。
スマホは一歩間違えれば深刻なトラブルメーカーになりかねない。
しかしそうであったとしても、利便の方が遥かに大きい。
今後ますますiPhoneは機能を進化させ人にとって身近な存在となっていくことだろう。
2
火や石器を使い始めたように、または農業を始めたように、iPhoneを使い始めたことは人類にとって特筆されるべき出来事として後世振り返られることだろう。
第6番目の感覚器を手に入れたようなものである。
瞬時にテキストや音声、画像などのデータを送受信できそれが保存される。
常に最新の情報を収集できるだけなくで、遠い過去の記録をもたちまちのうち確認できる。
利器という語に収まらない欠かす事のできない心強い助っ人ともいえる。
クルマが出現し脚力が減退したといった風にiPhoneにより失われる既存の能力もあるだろうが、補って余りある程の便利さを忌避する変人はどんどん少数派となっていくに違いない。
好奇心旺盛な我が子らであるので、たまには誤った使い方をすることだろう。
しかし、自ら役立てる方途見出す思弁備わっているのだと信頼し、安心して任せよう。
まず手始めに、Pathを通じて家族内でテキストと画像が行き交うコミュニケーションが始まろうとしている。
3
勤め始めた頃、土曜となれば、決まって朝に電話し、しかしデートの脈はなく、ぶらぶら一人映画でも観て過ごすというのが定番であった。
やがて倦んで東京を引き払うが、そのときになって実は脈がなかったのではなく、へっぴり腰での猫パンチに終始した臆病風が事態を停滞させていただけなのかもしれないと気付いた。
脈があるかどうか案ずる前に、まずは辿って、駄目なら引き返す、さっさとそのようであれば良かっただけのことなのである。
当時iPhoneがあれば、もっと適切なコミュニケーションが交わせたのかもしれず、多くの学生時代の友人同様に東京で結婚しそのまま東京人になっていたかもしれないという空想巡らせるが、後方に車列が迫りすぐに我に返る。
明け方3時、2号線尼崎玉出スーパー付近で信号待ちする。
後ろに空車のタクシーが何台か左右並んで停車している。
路地から風営法ギャルたちが何グループか走り出てきて、タクシーに手を振り、乗り込む。
無論、客を得たのは左車線につけていたタクシー達だ。
夜中、一瞬のスキがあったのだろうか、空車と表示するからには左車線に出ずっぱるべきであろう。
そのようにミラーで後方を眺めながら、クルマを発進させ事務所に向かう。
当然この三連休も仕事であり、本日午前は事務所、午後には堺に向かう。
しかし不思議なものである。
仕事なのに土曜というだけで心躍るような休日気分がふつふつ沸き出してくる。
昼は吉本新喜劇、そして夜はドリフかひょうきん族か。
腹から笑って過ごした土曜日の思い出が、仕事に向かう気分をほぐしてくれる。
大学生の頃にうちの事務所の労働条件を知っていたら歯牙にもかけなかったであろう。
始業は明け方、終業は仕事終わるまで。
ごくまれに、年に数えるほどの休日あり。
給与は時の運次第。
4
長男は学校の行事で週末滋賀の農家で仕事を手伝い寝起きする。
質問魔と化し、滞在先の手を煩らわさなければいいけれど。
クラブ活動に加え種々とりどりの行事が加わり、相当に濃厚な毎日を過ごしているように見える。
忙し過ぎてたいへんそうだが、活動に貧したカスカス、スカスカな日々を送る十代よりはよっぽどいいだろう。
何であれ実地にまみれる経験の数々が君の男としての身幅をさらにふくよかなものとしてくれるだろう。
奮闘する姿がほほ笑ましい。
5
iPhoneがあると天候の変化も読み取れる。
お山の天気は変わりやすい。
ある程度察知しないと風雨、雷鳴に祟られる。
雲行き怪しいとなれば、心の雨具用意して、そして見計らうべきを見計らわなければならない。
観測拠点も増えて精度が増す。
正しい反応と対処がiPhoneを手がかりにし、なされることになる。
備えあれば憂いなし、とまではいかないがせめて軽減されるのは歓迎すべきことだろう。
6
さて、間もなく堺に向かう。
クルマはどこかで引き払い、今夜も義父を誘って未完に終わったビール10本を目指そう。
あと数時間で、束の間ワンダフルな土曜日を堪能できる。
夜が明ければ日曜日、もちろん明日は明日で仕事が待つことを忘れることはないけれど日曜日の雰囲気もまた格別だ。