KORANIKATARU

子らに語る時々日記

王道と邪道


指の腱は骨より時間がかかるようだ。ブランク考えずいきなりラグビーで張り切ったのがいけなかった。
これで野球部の練習も参加できなくなった。一ヶ月はボールを投げられない。
夏休み、朝から晩まで野球三昧と意気込んでいた長男であったが叶わなくなった。

病院で支払いを済ませ長男を乗せクルマを発進させる。
君の瞳は一万ボルト、また会う日まで、君はバラより美しい、と流れ、あの鐘を鳴らすのはあなた、と続く。

終始黙っていた長男が、この歌好きと一言漏らし小声で口ずさむ。

口ずさめる曲はたくさんあった方がいい。

あなたにはさわやかな希望の匂いがする、そのあなたが町の高台であの鐘を鳴らし閉塞し疲弊した人々の心を癒す、あなたに会えてよかった、そのようなハッピーエンドな風景が浮かび、静謐に響く鐘の音に耳を澄ませる。


ジー何とかというサーバー会社から、サービス更新しましたというメールがあったのは、5月28日だった。
更新日は前日の5月27日ということだ。

全く必要なかったので、これを機会にと5月28日に解約した。
解約受付のメールは5月29日朝6時に届いた。

ところが、昨日、当のジー何とかから文書が届いた。

代金の支払期限が過ぎている、とある。
ついては8月2日までに一年分の代金29,190円を支払え、さもないと債権回収を弁護士事務所に委託する。

先日確かに解約したはずであり、サービスも当然に停止状態となっているので利用もしていない。
それなのに向こう一年分の料金を払えというのだ。

解約受付のメールを読み返すが、そのような旨の記載はどこにもない。
合点がいかない。

ホームページを調べてみた。
アホが見るブタのケツである。

それらしい記載があった。
ひとつ、解約は更新日の2日前までに行うこと。
ふたつ、更新日となった時点で向こう一年分全額の料金が発生する。

一瞬呆れ、はっと我に返り過去のメールを確認した。

ああ、なんと5月21日に、更新についてメールが届いていた。
5月27日に更新ですので、変更(解約やプラン変更)がある場合は更新日までにお手続き下さい。

見落としていた。
いちいち隈無く仕事に関係のないメールに目を通すことはない。
特に仕事柄25日の前は構ってられない。
事前のメール通知を読むどころか開きもしなかった。
それが徒となった。
そんな重要な知らせなら件名に「重要」の一言くらいつけてくれというのは甘え過ぎな考えであろうか。

嫁の誕生日でもあるまいし更新日について注意など払っていなかった。
更新日の前後で「解約」についての取り扱いにこうまで差があるなど想定すらせず、呑気な楽観論者が世の善意を当然と考えるように、更新日翌日に解約してそれで完了、話は終わりだと思っていたのであった。

私は、更新前後に仕組まれたかのような無知の谷にはまってしまったのであった。


時は流れ、いつもと同じように5月27日が静かに到来し過ぎ去っただけのことなのに後の祭り、更新日をたった一日でも過ぎれば解約しても一年分の料金が発生する。

更新にあたって、一年契約のメリット(そんなものあるのかどうか知らない)を享受しようと継続を希望しクリックなどして申し込み、やっぱやめたと翌日にキャンセルしたのではない。
5月27日に自動でタイマーがセットされているようなものであって、何もせずともその日に私は更新申込をしたということになり、そんなの知るかという規約によって一年分の料金を支払う義務を負うことになったのだ。

そして愚かな私は何も知らず更新日翌日に解約してしまったので、サービスも利用停止となりドメインも失い、何の対価も得られない向こう一年についてつっけんどんで理不尽な請求書を送り付けられ、至急払え、弁護士よこすぞと督促されているのである。

もちろん、私の落ち度について棚に上げるつもりはない。
解約のルールについては、規約か何かにあらかじめ目をしっかり通せば「分かったはず」であり、その気になれば「きちんと明示してあるので誰でも見られる」ようにしてあったにも関わらず、しかるべき細心の注意を欠いた分際で今更何をたわけたことをほざくのだ、という話なのだと十分にわきまえている。

さはさりながら、このような取引きは一般消費者はもちろん相手方に対して過重な負担を前提とし過ぎていると言えないだろうか。
相手を疑ってかかるくらいの姿勢で、いつだって目を皿のようにし送られるメールを全て読みカモにされないように注意怠ることができない。
油断すれば誤認不可避で、不利益を被ることになる。

私自身は相当程度注意を払っていたつもりであったが、それでもまんまと一杯食わされた。

更新日を一日過ぎての解約なので一年分払え、といった世知辛い話がまかり通る世をスゴスゴと認めるわけにもいかないだろうという考えも浮かんでくる。
更新前の解約をしなかったからといってホテルの予約をすっ飛ばして丸ごと相手の収益機会を損なった訳でもあるまい。
ホテルなんてある種の歯止めとしてキャンセル料約款掲げているのが実際でありよほどのことがない限り弁護士ちらつかせて督促するなんて考えられないだろう。
まして一年分も請求してくるなんて空いた口が塞がらない。

納得いかないまでも、しかし大した金額でもないので大半の人は諦めて大人しく支払うのであろう。
せいぜい消費者ホットライン通じ消費者庁に苦情の声を上げるくらいだろう。

では私はどうしようか。
納得いかないので日割りの分しか払いませんと内容証明でも書いて意思表示し、返す刀で29,190円の債権回収するという弁護士先生から判決突きつけられ見事成敗されることとしようか。
どこまでの時間とコストかけこの不可解な29,190円に執着してくるのかきちんと見届けようと思う。

私がアホであったことは百も承知のうえで人の寝首かき課金するようなやり方、さらに言えば悪徳商法の誹り免れないやり方に対し子を持つ親としてへらへら払う訳にはいかないと兜の緒を少しばかり締める次第である。
是非を世に問えばあんたが正しいのかもしれない。
しかし恥は知るべきであろう。

29,190円分の何かを食べたのでも使用したのでもサービスの享受を受けたのでもない。
更新日を一日過ぎ解約し、こちらは何の覚えがないにもかかわらず、一切使用せずともこの場合は一年分払ってもらうからねとホームページに書いてあるので、さっさと耳揃えて全額払え、こっちには天下の弁護士がついてるぞ、法的処分だ、給料差押だ、売掛債権差押だ、預金口座差押だ、自動車も什器も不動産も差押だ、と威丈高に常識はずれ、よこしまなことを言われているようにしか思えないのである。

ほとんど何も使用しなかったが利用料がもっと高額であった当時からかれこれ5年近く行儀よく払ってきた。
解約したのだから、つべこべもういいではないか。
人情持ち出して一言していいのであればかつての顧客に対し石もて追うごとき扱いはよしてもらいたいと言いたいところである。


今日7月30日が申請者の誕生日でもあり、何が何でも今日の日付で受理されねばならなかった。
事業を興す身からすれば、出だしの書類が誕生日の日付であれば意気込みも感慨も大きく異なってくる。

およそ4つの法人、弁護士の先生、様々な方の助力を得て、そして、十分に準備してきたはずなのに肝心の役所で重要書類の欠落を指摘され、あわてふためき嫌な汗流れたのであったが、単に事務所に置きわすれてあっただけで、無用な往復を一回挟んで、何とか申請業務を無事完了でき、役所を後にしたのは4時55分とまるでドラマのような山場を作ってしまったと思いつつ、これがドラマならあまりに退屈で誰も見ないであろうと自分に突っ込みを入れ脱力して夕刻の街をクルマで走る気分は、これはもう、これこそが仕事の見返りなのである、気分がいい。


職業に貴賎はないが、王道と邪道がある。

必要とされ求められ正々堂々その力を発揮しそれで喜ばれ感謝される王道の周辺には、あざとく人を担ぎ騙しぬか喜びさせ脅して煮え湯飲ませすかしちょろまかし煙にまき隙に乗じ錯誤させ、ゆすってたかってこびへつらいあの手この手でお金せしめようとする邪道が幅を利かせあわよくば王道に食い込み我こそはと王座奪おうと虎視眈々機会をうかがっている。

顔を上げ胸張って王道で清々しく生きて行けるよう、いまのうちにしっかり勉強し準備しておくことである。

ボーと過ごせば邪道にしかお役見つけられないことになりかねない。
あの鐘を鳴らすのはあなた、という訳にはいかなくなってしまう。

奇麗事ではなく、お金の多寡でもなく、本領発揮し人によくする要素多く暮らしていければ、それが一番幸福なことなのである。