KORANIKATARU

子らに語る時々日記

夕飯のありふれた風景


一階の玄関で長男が文化祭で披露する踊りの練習をし、手すり越しに階下見下ろす家内が夕飯のメニューの注文をきく。
帰宅した私の食事を用意し、そしてこれから長男の食事の準備にかかる。
このあと二男が帰ってくるのでまた支度しなければならない。
主婦業も本気で取り組めば案外忙しい。

今年の文化祭、長男はジャーニーをバックに仲間と舞台で踊る。
さすがダンスの天才、出し物とするならそれをおいて他にない。

何か一発芸を求められても私には何もなかった。
気まずい時間をみっともなく過ごし、でくの坊としてつっ立っているだけ。
何かやったとしても、全ては人生の汚点となった。
ふと寝返りなどうった際に突如思い出し、何であのようなことをしてしまったのだと頭抱えて耳塞ぎ苦しい時刻を過ごすことになる。

それに引き換え、踊れる君は素晴らしい。
一芸あれば心強い。
徹夜で勉強に取り組む姿もいいけれど、躍動する姿はさらにいい。


選曲した少年の父親がジャーニーを好んで聴いているのであろう。
我が子らが阿部先生に似ているというスティングよりも踊るとなればジャーニーの方が手足がより大きく動く。

高校生の頃、ジャーニーを好んで聴いていた友人のことを思い出す。
授業中にSeparate Waysの歌詞をノートに書きそれを私に見せてくれたのであったが、一体何でだろう、覚えようとした訳でもないのに私はその歌詞をいまも空ですべて覚えている。
よほど授業がつまらなく、その歌詞の解読に一気呵成夢中になったせいかもしれない。

その友人とは以後疎遠となったが、聞き及んだところ、それはもう絵に書いたような酷い女性、いい歳して我が身にしか関心がなく、何でもかんでも誰かに毒づき責任転嫁し、だだ漏れの不平不満を制御できない脆弱な精神を恥じる分別もなく、家庭での自らの役割など二の次三の次、おんぶにだっこで世話が丸焦げ焼けるだけの伴侶を選んでしまい、目が点となったまま離婚に至ったということだ。

君たちは決して、世にはびこる珍説の毒が回ってしまって言説おかしく、絶望的なほどにおつむがいかれて依頼心丸出し、なおかつ、ハードであるのが当たり前といった人生に対する気構えもなければ、降り掛かる厄介ごとに耐久する堪え性を一切持ち合わせない、心根腐って内実スカスカの女性と関わってはならない。

子々孫々だけでなく我々にも災禍が及ぶ。

注意深く用心して距離を置き話しかけられても取り合わず、助けを呼んでもいいから絶対に近づけず、万一接近してしまったなら、荷物全部置いたままでいいから、一切振り向かず一目散走って逃げろ。
相手は、君たちから世の光を根こそぎ奪う地獄の墓堀人である。


ジャーニーのOpen Armsなどをうっすら口ずさみながら、階下の長男と階上の家内のやりとりを上下に聞きつつ、長男が生まれるはるか以前のことなどを思い浮かべる。
眼前のことが、ただただ不思議な光景にしか見えない。
ついこの間まで、長男はおらず、二男もおらず、家内と私だけであり、もっとさかのぼれば、私は誰かと結婚するどころか痛ましいくらいに厳しくハードな若き格闘の日々を過ごしていたのであった。


スーパーマンの父ジョー・エルは、一瞬の隙をつかれクーデター企てたゾッド将軍に刺し殺される。
18,000年の時を経て再生されたジョー・エルの意識が、スーパーマンを追い地球に現れたゾッド将軍に言う。
「息子はおまえの2倍強い。おまえには倒せない」

父の思いの何たるかがその言葉に凝縮されている。

18,000年前、父ジョー・エルは地球へと息子を送り出しそれを見届け絶命する。
子は旅立ち、夫は亡くなった。
クリプトン星内部の爆発によって地表のあちこちから炎吹き上げるなか、母ララはもうどこにも逃げない。


これから長じ、君たちは様々な出会いを経ることだろう。

誰かを幸福にしてあげらるのならそれに勝るものはない。
時の巡りあわせが首尾よくいかず幸福には届かなかったとしても、多少なり縁があってしまったのだとしたらせめて、その出会いが良きものであったと相手の胸に残るよう最善の誠意をもって付き合わねばならないだろう。

我々は、もうサルではないし、ネアンデルタール人でもない。
ウッキッキと浮かれてほなバイバイで済むような付き合いは先々自らに毒が回って顔面歪むだけだと知っておいた方がいい。