すっかり日の暮れた市内の道をひた走る。
目指すは熊野の郷。
終日の運転であったことに加え、すべて新規、初お目見えの客先ばかり回ったので全精力使い果たしくたびれ果てていた。
さっさと湯に寝転び疲れを癒やさないと次の日の遠方業務に響く。
が、道混み合ってなかなか高速入口にたどり着けない。
ノロノロとした流れと信号待ち、ほとんど歩くに等しい速度である。
左横をタクシーが並走していて、仕方ないので車列の動きが止まる度、その様子に目をやった。
年配白髪の運転手は何やら楽しそうに話し続けている。
後部座席を見ると若い女性。
大口開けて笑っている。
こんなに混み合っているのに隣人はとても楽しそうに過ごしている。
年配白髪の運転手の声はこちらにまで届きはしないが、わたしも試しに大口開けて笑ってみた。
わたしだって楽しく過ごさねば損である。
不思議なことであるが、笑い出すと結構笑えて、おかしくって仕方がない。
ふと思う。
自分のことなど分からない。
この一日を振り返ってみて、その感を強くする。
わたしは自称、内向的な男。
一人静かに過ごし内省にひたる時間を好む。
どう考えても内向的だ。
が、この日わたしは幾人もの初対面の人と会い、会うだけでなく賑やか話し込んだ。
会った誰もがわたしのことをとても社交的な、うるさいくらいに外交的な人間だと思ったはずである。
つまりはそこにこそ真実があって、わたしは外交的な男なのではないか。
そんな思いがよぎって、内向的と主張する内なる勢力を蹴散らしていく。
今の状況も、外交的と主張する勢力を勢い付かせる。
ちょっと笑っただけで可笑しくって仕方ないのだから、これはあからさまなほどに外交的な性質と言うしかない。
いったいどこの世界に、ひとりハンドル握って大笑いしている内向的な男がいるだろうか。
やはりどうやら、自分のことなど分からない。
こうだと自分で思っているわたしは、おそらくとんだ的外れ。
なんだかよく分からない物体がハンドル握って大笑いしている。
そんな図が目に浮かんで、さらに一層おかしくって仕方がないが、なんで笑っているのか自分でも訳が分からない。
自分のことなど分からない。
啓示得たみたいにそう確信する夜となった。