ちょうど正午。 金沢駅に到着した。 冬の日本海側といえば鉛色の空が定番。 弁当忘れても傘忘れるな。 そんな言葉があるほど天気は気まぐれ。 だが、この日は違った。 雲ひとつない青空が広がっていた。 金沢にしては珍しい。 家内が予約してくれた蕎麦屋ま…
日曜の夜。 金沢から戻った。 旅の荷解きもそこそこに、旅の余韻にひたってリビングでくつろいだ。 先月、富山で買った梨がそろそろ食べ頃。 じわりと果汁が滴って、その甘さにわたしたちは思わず顔を見合わせた。 一年ぶりに訪れた金沢はほんとうに素晴らし…
前夜、読みたいと思っていた本が届いた。道中のお供にちょうどいい。 日常にこもっているより遥かに心浮き立つ。やはり遠出はいいものだ。 今回の行き先は金沢。ピッタリ一年ぶりの再訪となる。 遠くに行けば日頃の針小棒大が正される。つまり健全な精神は旅…
カバンに水着を忍ばせ、出先からの帰途、プールに寄る。 そんなことを20年前にもしていたから、自営業となって以降、それなりに運動はしてきた。 しかし、やはり忙しさにかまけ細く長く続くというよりは、仕事の波に飲まれては季節ごとに中断された。 そして…
近所の若い女子が結婚するらしく、その紹介記事に幾組もの幸福そうなカップルたちの写真が並んでいた。 人も羨むとは、まさにこういう光景のことを言うのだろう。 何不自由なく、この先もずっと明るい道が続いていく。 そう思わせるほど煌びやかな写真を眺め…
長崎旅行を取り逃し、未練がましく昼にちゃんぽんや皿うどんを選んでみたところで、旅情の埋め合わせにはなり得ない。 だが、しみじみと「いま、ここにいる」ことを実感した連休でもあり、そうした澱みのような時間を通過することにも、意味があるように思え…
場所は神戸。 海と山と街が折り重なって一枚の絵のよう。 そんな街に雨が降り始めた夕刻。 ほぼ無人とも言えるカフェで向き合った。 お相手は来年開院予定の若手医師。 このほど結婚したばかりだとのことで、気の早い話だったが、子育てについて盛り上がった…
故人はこよなくお酒を愛した人だった。 出棺を前に、ビールやらウイスキーやらお酒が棺へふんだんに注がれた。 向こうで好きなだけ飲んで。 手向ける言葉がアルコールの芳香に混ざった。 先日、著名なアルコール内科医と食事を共にする機会があった。 そのと…
わたし一人、長崎旅行を取りやめた。 ぽっかり空いた時間が長く、結局はジムへと足が向いた。 パンプは筋肉が悲鳴を上げるほどキツイ。 だからこそ、そのあとの水泳が楽に感じられる。 ただ浮いているだけ。 なんて楽なのだ。 キツさを抜けた先に、この浮遊…
息子たちがはじめて飛行機に乗ったのは長崎旅行のときだった。 2006年7月。 もう20年近くも前のことになる。 離陸を前に飛行機のおもちゃをもらってはしゃぐ二人の姿は、今も鮮明に目に焼き付いている。 いい夫婦の日を含むこの三連休、長崎への旅行を企画し…
家内が掃除や洗濯に取りかかろうとした。 せっかく頼んでいるのだから家事屋さんに任せよう。 子どもが巣立ってもなお、世話焼きな習性の抜けない家内を、そう言って制した。 長男の部屋をあとにし通りへと出た。 通りかかったタクシーに乗り、東京駅の日本…
上野駅から日比谷線に乗り、六本木へ向かった。家内と並んで座りながら、停車する駅をひとつひとつ眺めた。 ただ移動しているだけなのに、なぜかほんのり胸が温まった。 予約は12時半だった。 「立喰い鮨浩也」で腕をふるっていた職人さんがこのたび新しい店…
秋晴れの日曜日。 ホテルで自転車を借り、家内と二人、街へと繰り出した。 蔵前にはいいカフェがひしめいている。 昭和の面影を残す町工場地帯が、今ではコーヒーの香りに包まれる空間に生まれ変わり、目当てのカフェもやはりその系譜を継いでいた。 高い天…
根津界隈を家内と歩いた。 谷根千と呼ばれるこの一帯は、東京の古層を形成している。 路地を曲がれば明治の残り香が漂い、さらに曲がれば昭和の息づかいが現れる。 時間が幾層にも折り重なって、奥深い表情が生み出されているのだった。 午後6時になって、…
鰻を食べ終え、わたしたちは北へ向かって歩き出した。 日はまだ高く、日差しをまともに浴びるとじんわりと汗ばんだ。 街路樹やビルの影へと足が自然と向いた。 日陰に入ると、季節が確かに移ろっていることがはっきり分かった。 不忍池を左手に眺め、休日ら…
今回はじめて上野に宿をとった。 息子たちの住まいへのアクセスを考えての選択だった。 土曜の昼、上野駅で降り荷物をホテルに預けた。 二男のための食料だけ取り分け、それをわたしが手に提げた。 すでに二男は待ち合わせ場所で席に座っているとのことだっ…
週末は秋らしい好天に恵まれる。 天気予報はそう伝え、わたしたちも心晴れやか東京へと向かった。 このところ週末ごとに夫婦で遠出している。 が、やはり行き先が東京となると胸の奥の高揚がちょっと違う。 息子たちが暮らし、息子たち絡みの思い出が東京に…
針中野での仕事を終え、天王寺へ向かった。 時計を見ると午後2時を回っていた。 遅めの昼食をとった。 このところラーメンを食べると具をトッピングすることもあるが、2千円近くになる。 やはり物価は徐々に密かにあがっている。 一人の生活者としてそう実…
夜、寝付けなかった。 そういうときは蜂蜜がいい。 いそいそと片付け作業に精を出す家内が、そう言った。 小皿の蜂蜜をスプーンですくって、舌のうえでゆっくり溶かした。 再度寝床に入るが、眠りは訪れない。 仰向けになったまま、iPhoneを手に取った。 家…
東京でひとり暮らしをすればいい。 そう思っていたとおり、長男も二男もそれぞれ大学入学を機に上京しひとりで暮らすようになった。 家内のお腹に宿って以来、ずっと一緒に暮らした家族である。 離れた当初は、親として心配もあり、毎月のように東京へと通っ…
旅先では運動を欠いていた。 だから家内は月曜の昼からジムへと向かった。 コナミスポーツには猛者が集う。 猛者たちは連日通い、複数のセッションを受け、カラダの均整を絶えず向上させ続けている。 年齢不詳。 一見して歳は分からないが、見た目は誰もが実…
部屋の温泉にゆっくり浸かってから宿を出た。 肌に残る湯の温もりが雨模様の冷気に馴染んで心地いい。 クルマを走らせ、JAえひめ中央へ向かった。 前日は午後に来て、すっかり棚が寂しくなっていた。 やはり食材を得るのは朝に限る。 地元の人々に混じって、…
松山市街に入り、まずは予約してあった「味暦正生(あじごよみ しょうぶ)」を訪れた。 ここは愛媛の郷土料理、宇和島風鯛めしの名店である。 生の鯛を特製のタレに漬け、炊きたてのご飯にのせていただく。 鮮度が命のこの料理を、その日水揚げされた瀬戸内…
三連休が終わり、日常が戻った。 火曜、水曜は家で食事をとり、仕事をこなし、夜になると家内とジムへ向かった。 木曜はひさびさ事務所に顔を出した。 「久しぶりですね」 女子職員にそう声をかけられた。 その日はジムが休みだったから、業務後は家内と神戸…
富山滞在三日目は、朝から本降りの雨に見舞われた。 予約した「ます寿し」の受け取りの時間が9時だった。 朝食を済ませホテルをチェックアウトした。 さすが人気店。 すでに売り切れとの張り紙がしてあった。 予約していて幸い。 その張り紙を見て肩を落と…
食事も旅行もジムも夫婦で出かける。 そんな話を家内がヨガ仲間にすると、いつも驚かれるという。 え、二人で? ほんとうに仲がいいんですね。 その言葉を聞くたび、どこか違和感が残る。 一体全体、夫婦といったものの関係は、「仲がいい」「仲が悪い」とい…
この夜も氷見へと向かった。 ここらで人気ナンバーワン「鮨よし」の席を家内が予約してくれていた。 富山湾は「天然のいけす」と呼ばれる。 対馬暖流と日本海固有の冷水が交わり、深海から急激にせり上がる独特の海底地形が多彩な魚を育む。 氷見はその富山…
ホテルに戻ると足取りも軽やかに二男はジムへと向かった。 一方、わたしたちはゆっくりと大浴場へ移動した。 急ぐ理由などどこにもなかった。 時間に追われることのない湯の心地よさに、ただ身を委ねた。 旅先にあっても息子の時間は実に濃密だった。 わたし…
夕暮れ間近の海岸を、三人で歩いた。 規則正しい波音に混ざって吹く風がひんやりとし冬の到来を告げていた。 こうした素朴な時間が家族の本質を物語る。 ただそばにいる。 この関係は絶対的なものだった。 もちろんうちには長男もいる。 氷見と東京をLINEが…
昼に富山に到着した。 前泊していた二男と駅で合流した。 ニッポンレンタカーでクルマを借り、わたしがハンドルを握った。 カローラの乗り心地は格別と感じた。 市内へと走り、まずは昼に寿司を食べた。 おいしい。 もっと食べることができるが先がある。 皆…