KORANIKATARU

子らに語る時々日記

完走まであと少し


中学入試まで残り3カ月となった。
いよいよ終盤、最後の追い込みに入り各家庭では手に汗握る気の張った毎日となっていることだろう。

塾では夜11時迄の夜の特訓が開かれ、最難関だと12時過ぎることもあるという。
暖衣飽食極まるぬくぬくの世にあって、頼もしいほど殊勝な取り組みである。

親としてはもう十分に頑張ってきたことをしっかりと見届けた。
最後まで走り抜き、この経験が自己を恃む盤石の礎となってくれれば十分である。
そして、そろそろ「解毒」の準備も始めなければならない。

いろいろな思い込みを解きほぐさなければならない。
こんなハードな日々を耐え抜き頑張り通すためには、無理もない、支えとなる価値観が必要だった。
その支えが両刃の剣で、自分を強くするという方向に作用する一方、力及ばずの者を軽視するという反作用も生むのである。

たかが勉強の出来不出来だけで人を判断するのはよくない。
そんなことは知っていると言うだろうが、心の底では、無意識なランク付けをしてしまっている自分に気づくはずだ。

勉強というのはめちゃくちゃ大事だが、人間の精神活動のほんの一片、一断片に過ぎない。
どんぐりのせいくらべで数点勝っていても、他の不可視の部分では足元にも及ばないということがいくらでもあるのである。

パッとした学校を出ていなくても、舌を巻くほどの頭の回転と発想で世間をあっと驚かせ、何人もの生活の主柱になっている人物がいる。
世の為人の為、持てる力を出し切って一生懸命仕事し、社会に貢献しようとする無数の人々がいる。
牽引する人、後ろから支える人、それら前を向いた力の集合が良き社会を織り成しているのである。

そのような絶対的な価値に比べれば、勉強ができるなんてリモコン操作の感度がいいロボットみたいなものでそれ自体重宝はするけれど実社会ではいまやありふれ全く大したことではない。

おれの方が算数の点数いいもんね、という戯れ言など冗談でも口にできないような、存在感というのだろうか、諸々の力を動員しなければならない総力戦となる。

いよいよ、一気に背が伸び肩が広くなり徐々にお毛毛が芽吹き生え揃ってゆく。
大人となってゆく過程で、もっともっと大事なこと、神様に授かった自分自身の動力源のようなもの、人生通じ目指す方向性といった、言葉になり難い何かを見出して行くことになる。
たった一人、自分という個に宿る独自の力がおぼろながら形となり萌芽し始め、自分自身が、他の追随許さない力が開花する場所、その住み処となっていくのである。
心躍ることである。

もちろん、念のために言っておくが、いつだって勉強は欠かせない。
ひとなみの勉強にも取り組めないひ弱な精神にそんな力が手に入るが訳ない。
それに必要な力はひとつでは足りないのである。

以前にも書いたが、中学受験はその歳の頃、絶妙の時期のちょっとした元服の儀式みたいなもの、男となる一里塚といえる。
先の見えない不安、競争に晒される焦り、押し寄せる課題、、、子供の両の手のひらでは持て余す難題に直面し、葛藤し、対峙し、打つのめされ、持ちこたえる。
鉄は熱いうちにうて、可愛い子には旅をさせろ、である。

そういった状況に晒される経験は糧以外の何ものでもない。
トラウマになった、とか、生涯尾を引く挫折感を味わった、など大仰なことをお気軽に言う世の風潮、誤った人間観に毒されてはならない。
何代にも渡って生き延びてきた人間の根本がそんなヤワなはずがないではないか。

そりゃ、親である。
のびのびと草原を駆け回るような穏やかな日々に心身くつろいで生きてほしいと思わなくもないけれど、多少なり酸いも甘いも噛み分けたいい歳になって、そんな無責任な幻想で子の精神を骨抜きにする訳にはいかない。

So far so good、ここまでよく頑張った。
あともう少し、終われば一緒に映画でも観に行こう。
007の新作などいいんじゃないか。