KORANIKATARU

子らに語る時々日記

いい映画を見て少しは優しくなろう1


家内の運転で長男伴いみずきの湯に向かう。
これはたまらないというほどに冷え込む夜はサウナで汗滴らせるに限る。

先週は二男とであったが今週は長男と。
我が家の取り合わせは色とりどりだ。

サウナでスキー合宿の様子を聞く。
教師交えてトランプするなど何ともくつろいだ時間を過ごしたようだ。

行きの道中、信州山間のインターでかつての塾仲間らと遭遇したという。
奈良の学校も京都の学校も全く同じ時期に同じ場所でスキー合宿なのだった。

大阪下町の風土であるなら、他校同士が混ざればつばぜり合いが始まるに違いないところであるが、塾で同じ釜の飯を食った仲、今は校舎が違うだけ、ちょっと住所や風向き異なればごそっとメンバーが入れ替わっていてもおかしくない、我も我も輪は広がり何とも和やかなムードであったという。


行政窓口のおじさんが「非常勤嘱託職員」と首から名札をぶらさげている。
定年過ぎた方を活用している旨、行政機関として率先垂範実行しているとのアピールなのだろう。

「不慣れなもので、ご迷惑かけるかもしれません」
おじさんの第一声であった。
そして恐縮したような素振りで、慎重にもほどがあるだろうといったペースで申請書類を確認していく。

あまりに心詫びしい眼前の光景に胸しめつけられ、私は、いいですよゆっくり確認して下さい、と心優しく寛大な風を見せてしまった。

30分標準であるべき確認作業に、2時間以上要した、というのは本当の話である。
窓口対応が始まる13時00分に席につき、帰途についたときには15時20分を回っていた。
予定の変更を客先にメールしつつ、遅々と進まぬおじさんの確認作業に干渉せぬよう心を配る。

せっつくような短気は見せられない。
気の毒であるし、それに急かせば更に作業は遅くなるに違いないのだ。


どうやら相当にプレッシャーのかかる立場におじさんは置かれているようだ。
不首尾あれば、若き「正職員」の面々にきつくどやされる。
だから間違えられない。
爆弾処理班の慎重さをもって書類をチェックしていかざるをえない。

おじさんが言う。
時代が時代なら焼却場で待ち伏せですわ。

は?
意味が分からない。

果たし合いとなれば、学校の焼却場でやるに決っているでしょ、とおじさんは言う。
カタキを焼き場で待ち、ヤキを入れるわけである。

血気盛んな若きおじさんの姿を想像してみる。
威勢のいいやんちゃ坊主が正職員相手に大立ち回りするシーンが一瞬浮かんで、むなしく弾ける。

おじさんはもはや老境に差し掛かり、当時の腕っ節など見る影もない。
首からぶら下げた非常勤嘱託職員という名札がズームアップして目に飛び込む。

早くしてよ、おじさんを小突くような言葉など発せられる訳がない。


スサンネ・ビアの「未来を生きる君たちへ(原題は報復)」は、三つの層で発生する暴力を巡って物語が展開していく。

イギリスからデンマークの学校に転校してきた少年クリスチャンの前に図体のでかい悪童が立ちはだかる。
このままでは永遠に小突き回される。
クリスチャンはどのように問題解決を図るか。

自転車の空気入れで背後から悪童をめった打ちにする。
その場面に引き込まれ、見る私も一緒になって悪童をめった打ちし、胸のつかえがすっきり解消される。
悪いのは悪童の方であり、ぶちのめされて当然だ。
思い知ったか、とすっかり少年クリスチャンに感情移入し溜飲を下げる。

つづく