慣れっことはいえ、負荷大きい日は前夜から重苦しい。
そうと察してのことだろうか。
この夜、家内が繰り出した夕飯メニューはどこまでも軽かった。
ぷっくりふわふわの原木しいたけ。
ピーナツバターつけて食べるにんじん。
きゅうりの漬物。
これでは力がでない、鬱になる。
そう駄々をこねると、こんがり焼けたチャーシューが出た。
しかしチャーシュー効果もさほどではなかった。
朝になっても力が湧かない。
気が重いからだろう。
早く眠ったはずなのに目が冴えない。
ぐずぐずしつつも、いちにのさんっ、と自らに喝を入れて起き上がる。
寝ぼけてひしゃげた闘志を、駄々っ子あやすみたいに、なだめてすかして機嫌とる。
事務所に着いてエナジードリンクに続けてコーヒー2杯をカラダに注ぎ込む。
これでなんとかやっとエンジンがかかり始めた。
時間も迫る。
さっさと仕上げてリングへと向かわねばならない。
始まる前、ここが一番、魔の時間。
やる気の谷間とも言え、何度やっても何年やっても、なんだか気分がすぐれない。
明るくなれないし、笑えない。
つまりは緊張。
わたしはちゃんと事に処し適切に話せるのだろうか。
不安がしとしと雨のように降り注ぐ。
不快であるが、この雨ばかりはどうしようもない。
どのみち幕が開けば晴れ上がる。
いつもそうなのに、なぜなのだろう、間際で晴れることは絶対にない。
そして、案の定、いつものとおり。
何かが乗り移ったみたい、元気ハツラツ、楽しく充実した時間を過ごすことができた。
誰一人、こんな賑やか明るい人物が幕開くまでは塞ぎ込んでいたなど信じる者はないだろう。
わたし自身もなにがどうなってるのか訳が分からない。
結局はハイテンションになるのだから、最初からそうであればどれだけ楽だろう。
決まって沈鬱なトンネルをくぐることになる。
この持って回ったややこしいプロセスが、毎回毎回面倒でならない。