1
電話があったのは昨日昼過ぎのことであった。
ちょうど大阪府庁で申請業務中だったので後で折り返した。
認可申請の補正期限が明日まで、だという。
できますか?と依頼者に問われ、何とかやってみましょうと答えた。
事務所に戻り送られてきた補正内容を確認する。
A4の紙3枚にびっしりと細かい文字が並ぶ。
ぼんやりと眺める。
メールで届けられた過去の決算書や当の認可申請書や変更届をぼんやりと眺める。
何とかなる。
所要時間は6時間と見積もった。
2
いきなりの切った張ったはむしろ不効率。
この仕事を通じて痛い思いして学んだことである。
ざっと一読だけして、付箋をはって、あとは明日と腹を括る。
手短に日記を書いて事務所を引き上げた。
自宅までの行程を独りで歩く。
音楽も聞かず歌も唄わない。
頭の中は、移り変わる景色に任せたままであるが、時折は意識して補正内容のことを考える。
3
自宅で食事し、家内の「駅リンくん」レポートを聞く。
助っ人で仕事に駆り出すと、家内は時折「駅リンくん」を利用する。
特に今頃の季節、自転車で市内をあちこちまわれば爽快だ。
その「駅リンくん」が減っていくばかりだと西九条駅のおじさんから聞いたという。
自転車貸すよりテナントに場所を賃貸した方がJRは儲かる。
それに、移動するなら自転車より電車を使ってもらった方が実入りもいい。
そんな経営方針となってから、今では「駅リンくん」のある駅は希少となった。
小さな小さな大阪市内。
気軽に乗り捨てできるよう各駅に駅リンの設置があればどれだけ便利だろう。
それにエコにも通じる。
ささやかな抗議として、家内は帰途、JRではなく阪神電車を使った。
4
そのような話を聞きつつ晩酌し、風呂に入って機嫌よくベッドにもぐりこむ。
明け方には、作業工程と段取りが頭の中で鮮明に浮かんでいる。
スヤスヤ眠る傍らで、私の中の誰かがせっせと仕事の支度を整えてくれている、というしかない。
取り組む内容が具体的になればなるほど、早く仕事したくて仕方がない。
4時には仕事場に向かった。
そして、デスクの上で爆走する6時間が始まるのであった。
気を緩める猶予はない。
次から次へと片付けていく。
その度ごと、赤鉛筆で囲ったタスクを青鉛筆で塗り潰していく。
心地いいのなんのって、この感触はたまらない。
利益書く場所に経費を記載するなど前任者は、財務諸表が読めないだけではなく、数字も読めなかったようである。
559が599になっていたり、4050が4500になっている。
規約や定款のなか、デタラメな記載を一つ一つ直していく。
内容はもちろん、法令通りの文言を使わねばならない箇所については、送り仮名も句読点もアスタリスクも全く同一に整えていく。
根を詰める作業が続く。
昼前には仕上がった。
頭のなかが真白に染まるほどの達成感である。
事務局長に電話し現地で待ち合わせ。書類に捺印を受ける。
大手町の役所に向かう。
担当者の指摘のテンポにぴったり合わせ、わんこそば盛るみたいに差し替えの書類を渡していく。
見事晴れ晴れ全部、解消となった。
外へ出るとポツリポツリ雨粒落ちてくるが、プルプルくるような満足感に私は恍惚となっている。
この仕事、やめられない、とまらない。