今夜はどこで風呂に入ろうか。
道中にある風呂をグーグルマップで探索する。
尼崎市役所の近く、和らかの湯というのが目に入った。
その界隈はたまに通るが心当たりがない。
新しくできたばかりなのだろう。
なか卯のカキフライ定食を夕飯とし一路風呂へとクルマを走らせる。
ナビの指示に従い十間の交差点で右折し目的地に近づいていく。
1kmほど北上し「目的地周辺です」とナビは言うが風呂など見当たらない。
どこにもない。
画面に表示される地図で当たりをつけて、まずは高架脇の側道に入る。
が、人っ子一人ないような荒涼とした場所に迷い込んだだけだった。
一回りして、同じ地点に戻ってやり直し。
今度は、側道ではなく高架を上がった。
しかし、Gと表示される目的地を背にしてひたすら離れていくだけとなった。
路肩に停めてiPhoneの地図で確認してみる。
先程入った側道近辺に確かにあるはずで、廃業となったわけでもなさそうだ。
側道の暗がりが頭に浮かぶ。
あんなところに風呂があるなど腑に落ちない。
まことしやかに語られる奇怪な都市伝説のようにも思える。
次のアタックでダメならあきらめよう。
そう決めて、再度、元に戻って側道に入った。
iPhoneで地図を確認し、Gに向かってハンドルを切る。
真っ暗な小道、しかも行き止まりに入り込んでしまった。
狐に化かされているようなものである。
抜け道を探って慎重に前に進む。
と、突如左方の視界が開け、遠く向こうにそびえる和らかの湯が目に入った。
が、左方は封鎖されていてここから到達できるはずがない。
もと来た道をバックで戻る。
時にナビは、邪悪な教祖と化す。
これまで何度袋小路へと導かれたことだろう。
その最たる失敗談と言えば、真っ先に杓子峠が記憶にあがる。
ナビが言うのを鵜呑みにしたばっかりに、まさに地獄を見た。
その様子は過去の日記に記録してある。
風呂が実在していることをこの目で確かめた。
あとは自身の五感を頼りにしこの暗闇を抜け、瞼の裏に浮かぶその像にじりじりと迫っていくだけのこと。
必死のぱっちでたどりついた和らかの湯には人の匂いがあった。
家族の団欒があり、スタッフの笑顔があり、われら人類の息吹があった。
湯の音が耳に心地よく響き、露天では夜風優しくそよいで頬をなで、空には薄雲まとった巨大な月が浮かんで目を和ませる。
心ゆくまで湯につかって安堵する。
ジャグジーの充実度が際立っていて、温かな渦に打たれて道中の疲れもすっかり癒えた。
これで帰途の寄り道先がまたひとつ増えたことになる。
いいお風呂を見つけたよと早速子らに伝えなければならない。
次は道に迷うことはない。
ちょうどいい下見になったと言えるだろう。