視界閉ざされるほどの激しい雨のなかクルマを走らせる。
杭瀬あたりで二件立て続けに事故車両を見かけた。
豪雨のなか寡黙に回転しているパトカーの赤色灯が路面を照らし不気味さが増す。
こんな日はまっすぐ家に帰るべきだろう、そう思いつつも足は和らかの湯に向かった。
悪天候に見舞われれば風呂であっても閑古鳥が鳴く。
夜の9時過ぎ、これほどガラ空きの和らかの湯を見たことがない。
巨大な湯船を独占するみたいに横たわった。
まるで帝王。
炭酸泉は湯加減もちょうど。
一日を終えた安堵の息がゆっくり時間をかけてこぼれ出していく。
このところ若くリキある事業主との出合いが続いている。
北摂の虎に中河内の狼。
ミナミの黒豹に泉南の巨象。
身から放たれるその存在感に野獣の名を当てはめずにはいられない。
じっと向かい合って話は尽きず、若くみなぎる彼らの意気揚々が中年書類屋の活力にもなっていく。
昇龍の袖口つかんで、自身もついでに天高く昇っていけるような気までしてきて、結構楽しい。
いまは30代の叩き上げが、頭角を現しながら向かう所敵なしの40になり、老練いぶし銀の50へと変貌していく。
そんな様子を横目で見ながらセコンドみたいに伴走できるのであるから、こんな面白い仕事はない。
風呂に浸かって勢いづいて、わたしは激しく雨打ちつける露天へと躍り出た。
裸体につぶてを受けるようなもの。
四方八方から押し寄せる冷たい雨に一気に体温奪われ心はたちまち急降下、ぶるる震えて怯えすら感じた。
一目散、わたしは屋根ある文明の世界へと駆け戻ることになった。
そう、わたしは中年の書類屋。
日頃持ってもせいぜいA4用紙が関の山。
頭の天辺から足の爪先まで完膚なきまでに軟弱の徒。
まるで歩くガラス細工のようなものと言え、野獣に踏まれるどころか一喝されるだけでひとたまりもない。
雨に打たれて身の程を知る夜となった。