KORANIKATARU

子らに語る時々日記

映画「アンコール」を見て泣いたままマッチャンの壮行会で気炎を上げた。

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壮行会の開始時間が19:30。
まだ二時間ほどある。

出発まで映画を見ることにした。
終業後の事務所で「アンコール(Song for Marion)」を見始める。

嗚咽を免れない。
もし劇場だったらどうすればいいのだろう。
館内はしゃくりあげるようなすすり泣きが止まず、つられつられて皆泣きじゃくるといった様相であったに違いない。

老いた妻は末期のガンに侵されている。
余命数ヶ月と宣告されている。
最後の時間を夫と過ごし、そして、合唱コンクールに向け仲間とともに練習に励む。

合唱コンクールの予選。
芝生の上に設えられたステージで妻がソロで歌う。
「True Colors」だ。

歌とはこういうものなのだろう。
上手い下手といった話ではない。
心から発せられる歌声に、ただただ胸が震える。

これまで何度もTrue Colorsを耳にしてきたが、この場面を見てしまったからにはダントツの名曲として私のなか屹立する存在となった。

その姿を夫は寡黙に見つめている。
その夜、夫は妻に言った。
「逝ってほしくない」

妻が亡くなったとき、終始寡黙だった夫が悲鳴を上げるように泣く。

歌うとき妻はどのような気持ちだったのだろう。
夫は自らにそう問い、問えば問うほど合唱団の存在を無視できなくなっていく。
徐々に近づき、気がつけば一員となっていた。

若いころ、妻といるためには何だってした。
それを思えば合唱団で歌うことなど大したことではない。
夫はそう考える。

ラストシーン、合唱コンクールで夫が歌う。
芝生の上、コンクールの予選で妻は夫への愛を歌い、そして、決勝の舞台で夫は亡き妻への愛を歌った。

曲は Billy Joel の Goodnight, My Angel

いつの日か、僕らはみんないなくなる、、、それでも、子守歌は語りつがれる、、、けっして絶えることなく・・・そして、きみと僕もずっと永遠に・・・  

やがて訪れる時間について、その心の備えとして、誰と一緒に生きているのか、それを心から知るきっかけとして、
男はみんな見るべき映画だろう。
ちょっとは女房を大事にしようと思うに違いない。


泣き腫らした目のまま、北新地に向かう。
堂島川が見渡せるイタリアンレストランが壮行会の会場だ。

19:30、私と谷口が同時に店に到着した。
続けざま、高岡、園田、清家、小山、岡本と登場し、主役の松村が現れた。

この12月、松村が外科医として上海に赴任することになった。
その壮行会がここで開かれるのであった。

長期短期合わせて、上海には7万人もの日本人が滞在している。
ところが、日本人外科医は皆無だった。
その最初の一人として松村が第一歩を踏み出すことになる。
地の塩、世の光、まさに校是のとおり。

仲間談義で盛り上がる実に楽しい飲み会となった。
色紙を回し、覚えたての中国語で松村が挨拶し、そして、何枚も記念写真を撮った。

ほんと、星光生は軒並み人柄が素晴らしい。
いい具合に順風も逆風も受け、皆がいい顔、人の気持ちの分かるちょうどいいお湯加減の男衆となっている。

この壮行会をひとつの節目に、その都度その都度、交流が更に深まり、やがては子らも含めて同じ飲みの場で顔を合わせるようになっていくことだろう。