KORANIKATARU

子らに語る時々日記

思いやりのある優しい男子になってほしいと願ってすすめた映画


夜中に差し掛かろうという時間に、電話が鳴る。
不吉な予感に身構える。

長男の友人からの電話だったようだ。
ほっとする。
携帯を持たせていないため単なる連絡であっても固定電話が媒介となる。

4月になれば中3となる。
中2クラスの打ち上げとして焼肉パーティーが有志によって今月末に企画された。

皆に声をかけ何とか集めて出席率は6割方に達した。
どう足掻いても出席率100%は難しい。

どこでもそうである。

8割方は主旨に賛同し、しかしそのうち2割は都合がつかず、残り2割は放っておいてくれと袂を分かつ。

この残り2割については寂しがっても仕方ない。
時期が来れば、こちら側とあちら側のメンバーのうち何人かが入れ替わることもある。

立場は選択できた方がいいし、両方の立場が互いを認め合って共存できるのが健全だ。


毎日のように話題に事欠かない個性的な中2同級生の面々であった。
たまに家を訪れてくれた思春期真っ只中の少年たちは皆が皆可愛いものであった。

子らが何人も集まる場であっても、我が子にしか関心がなく、我が子にだけ声をかけ、他人の子の動向など露とも気にかけず、転けようが滑ろうが一切お構いなし、という人が稀にいるけれど、私が親しくする周辺にはそんな陰気で根暗で狭量な輩は皆無なので、そんな人をお見かけすれば度肝抜かれ唖然、開いた口がそのままということになってしまう。

私の周囲を見渡せば、天六のいんちょを筆頭に、他人であろうがどうであろうが、子らがそこにいれば、よお調子はどうだいと優しく声をかける顔ぶればかりが思い浮かぶ。

長男の同級生らの親もきっとそのように広い心と包容力のある方々なのであろう。
だからこそ、自分だけでなく他者にも目を配り他者にも心を使える人間になる。
親がそうであるからこそ、子もそのようになる。

皆、品があって顔立ちもよく、そして学業についても優秀だ。
彼ら中2は、まだ中2なのに並みの進学校の高校生相手なら勝ってしまうくらいに英語も数学も鍛えあげられている。
だからもちろん、中2で高校入試を受け相当に優秀な一般の中3を向こうに回しても負けることがない。


日曜朝、小雨交じる曇天のなかクルマで事務所に向かう。
夕飯は前夜の回転寿司の捲土重来、ちょっとした寿司を家族のために買って帰るつもりだ。
食いざかりの男子が控えているので取り取り選んで都合80貫は必要となる。
雨降りの中、とても手持ちで運べる量ではない。
クルマが必ず必要となる。

そして寿司には白ワイン。
寿司の味を引き立たせるには甲州種がいい。
今夜は甲州シュール・リーを家内と分けることにする。


月曜からの業務に備え事務所の掃除を済ませ書類や仕事道具を整える。
注文した寿司が握り上がるまでの時間、映画「ヒトラーコード39」を観て過ごす。

主演のロモーラ・ガライが溜息出るほどにエレガントで、それだけでも観るに値する。
また、イギリスに旅の郷愁を感じる人であれば2時間たっぷりその情緒に浸ることができる。
お勧めである。

映画を見つつ意識の半分は過去へ過去へ回帰していく。
今は日本で受検できるのだろうか。
仕事をさぼってケンブリッジくんだりまで英検テストを受けに旅したことが懐かしい。
試験当日、年の暮れの冷え込む早朝に交通手段がよく分からずホテルから受検会場まで歩いた。
その光景が映画に触発されてありありと蘇る。

重厚な建造物が薄闇にけぶり、静か横たわる石畳がいぶし銀の光沢を放つ。
試験に臨む道程としてこれほど心に染み込む趣き深さの街路はない。

いつか君たちもそこを歩くのかもしれない。

さてさて、ヒトラーコード。
映画の舞台は、1939年のイギリス。
対岸にヒトラーが台頭し、あれよあれよと勢力を拡大していく。

そんな奴に勝てるわけがないと政権内で融和策を弄する勢力があった。
融和派からすれば、ヒトラーとの武力衝突を辞さないチャーチルを首相にすることだけは回避せねばならない。

ヒトラーと対峙する際、あのイギリスでさえ一枚岩でなかったと映画によって知ることができる。
あんな怪物みたいな奴が出現し、魔の手伸ばしてくる薄気味の悪さはいかほどのものであっただろう。
敗れれば、悲惨な末路に違いない。

更にその向こうにはスターリンがいる。

私が当事者なら、まずは逃げと愛想笑いの一手でごまかそうとするかもしれない。
金を積んででも融和策を推し進め穏便に事を解決しようとする意思決定を笑うことはできない。


帰宅し、家族4人、心込めて握られた寿司を面前に厳か着席する。
父として各自に許された食の領土を示す。

しかしどの道、親の分など知れている。
彼らがエリア拡大するのであれば、それにまかせるつもりではあるが最初にそう言ってしまうと秩序が完全に失われてしまう。

いただきますと手を合わせたのも束の間、案の定、彼らの快進撃はとどまることを知らない。
親の陣地の陥落は時間の問題だ。

その様子を肴に白のワインを口に運ぶ。

食の進撃も一段落し、二男が春の研伸館の様子を話してくれる。
クラスは女子ばかりであるという。
4月になれば否応なく周囲は男ばかりとなる。
女子の見納めとなるからそれでいいではないか、と応じると、二男は笑った。

あ、そうそう、と二男が話を続ける。

金曜日、授業が終わって隣の教室に目をやると、そこにたまたま長男がいたという。
二男より長男の授業の方が長い。

窓ガラス越しに覗きこみ二男は長男に合図を送ってみた。
しかし、兄は弟を全く気にかけることなく講師の話に何度も真剣に頷きペンを走らせ続ける。
噂通り、兄貴の集中力は、ああ見えて結構凄い。

なんとも楽しいエピソードの合間合間にメアリーとトムがどうしたこうしたといった初歩の英作文の質問が織り交ざる。

家内が答え、私が答え、時に長男が口をはさむ。
楽しい夕餉に更にお酒がすすむ。


いつの日か、この長い長い記録が子らの目に触れる。
2011年からかれこれ4年は続いている。
幼い頃からの日常の場面がスケッチされ、父として様々な意見を述べてきた。

子らが長じて、ふとした暇つぶしの時間、例えば、来客を待つ席や汽車を待つ時間、ちょいとクリックしアクセスすれば、事細かくしたためられたいろいろな時期のあれやこれやが、そこに現出することになる。

そんなシーンがきっといつかどこかで生まれるのだと思い浮かべて、今日もこの日記を綴る。

声を潜めて語ることなど何もない。
声の続く限り、朗々と書き続けていく。

まもなく、新しい出会いにあふれる春が訪れる。

食後、子らの宝ともなるであろう映画「The Mighty(マイ・フレンド・メモリー)」を簡単な説明を加え子らに渡した。
人を思いやることのできる、そんな心の備わった強く優しい男子になってもらいたいと願って。

春休み中、必ず見ておくように。
Sting が歌う主題歌が2度胸に沁みる名作だ。

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