KORANIKATARU

子らに語る時々日記

元気でいてくれればそれでいい


夜半、知らぬうち雨が降ったようだ。
路面が黒く濡れ、湿度含んだ空気がやたらと重い。

車庫右側のクルマには、準備よく黒姫合宿の荷がすでに搭載されている。
家内が学校まで二男を送るのだろう。(結局は送迎を固辞し一人電車で向かったと後日聞いた。)
間違ってこちらに乗って出かければたいへんなことになる。

左側のクルマに乗って事務所に向かう。

湿度は百%に近い。
飽和した水蒸気で朝の空気がどんより淀んでいる。

気のせいか、クルマの走りがいつもより鈍い。


朝食を取りながら新聞を読む。
パナソニック福島工場で行われた大規模リストラを取り上げた朝日新聞の記事に目がとまる。

福島工場などを含む「構造改革」によってパナソニックの純利益は1.5倍に増え、一方で、釈然とせぬまま退職を余儀なくされた従業員も数多い。

ここ数年で従業員数は2割削減され、業績は黒字回復を果たした。
何万という人間がリストラされ、その「効果」が黒字となって結実し、そして、「グローバルな競争力」が醸成されていく。

「業績改善」と景気良く語られる背後には死屍累々。
身も蓋もないその落差に、なんとも言えない血なまぐささを覚えつつ、飯をかき込む。


昨日、友人がSNSで退職届をアップした。
文面には一身上の都合による退職とある。

四十過ぎての自己都合退職、しかも、自ら辞すなど通常はありえない行政職だ。
友人間に色めき立ったような反応が起こる。

何か一大事か、もしくは兼ねてからの秘めた本願が成就したのか。
雲の陰りと晴れの青空が綯い交ぜとなったような心模様のまま、しかし真相は分からず、宙ぶらりんな状態がしばらく続く。

夜になって、どうやら所管法人への転籍のようなもの、自己都合退職とは形式だけの手続きで要は人事異動に過ぎないと真相が明らかとなる。

ほっとするような肩透かし。

固唾飲んで事態を注視した我々がナイーブに過ぎた。
冗談するにしても手加減してほしいところであるし、種明かしも早めにしてもらいたいものである。


父となって十数年。
そのサガなのだろう、すべての事柄を子に関連付けて考えるようになる。

生活の中心に子があって、裏返せば、子と出会う以前は人生が空洞、まだ始まっていないようなものであった。

今朝も寝姿を目に収めてから家を出た。
隆起するケツに幅広さ増す背中、男っぽく精悍となりつつある面立ち。
そのゴツさに頼もしさを感じつつ、その将来を思う。

いくらゴツくても、それで楽勝決め込めるような世ではない。

政治的迫害を受けたり、武力紛争に巻き込まれたり、極限の貧困に晒されたり、といった「命からがら」のサバイバルとは無縁で暮らしよい日本であって、昨今は貧しさに暮らしを侵蝕される世帯も出始めたとは言え、見渡せばどの子もこの子も恵まれておしなべて幸福そのもの、現状は穏やか暮らせる稀有の国である。

しかし、徐々に徐々に、これまでは見えにくかった勝ち負けが、明確歴然となっていく様相だ。

品も慎みもなく勝てば官軍と勝ち組はド派手高らか旗を振り、負ければ賊軍と負け組は憐憫の対象とされ仕方ないので卑屈に愛想笑いでもするしかなくなる。

世は不条理に満ち満ちて、勝ち負けどちらに転ぶかは日頃の行いと時の運。

どちらに転ぼうが、勝ち負けの文脈を越えて超然としていてもらいたいが、負け側にあれば、その超然が持って回った負け惜しみのように映りかねない。

勝つ側にあって、しかし勝ち負けなど意に介さないという在り方。
勝った負けたなどとは次元異なる域の寡黙な精神を擁し、誰かの幸福に貢献できるような人物となるのであれば、親としてこんな嬉しい事はない。

もちろん、一応言ってみただけの高望み。
元気でいてくれればそれでいい、など本心言えば、子らからすれば張りがなくなるというものであろう。
だから本心は最後の最後まで心の奥底に仕舞いこんでおくことにする。

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