1
強烈に冷え込む朝だった。
始発を待つホームに人はまばらで、多くは階段下に立ち吹きすさぶ冷気をやり過ごしていた。
数分立っているのも辛い。
iPhoneで気温を見るとたったの1℃であった。
しかしいま長男は最高気温が零下10℃といった異国の地にある。
そこと比較すれば1℃などまるで南国の陽気だ。
なんのこれしきと寒さに抗する。
ガタガタとくる震えはぴたりと止まった。
2
夕刻、出先にて仕事を終える。
最寄駅となる出戸まで若社長がクルマで送ってくれた。
日中も寒さは一向に収まらず、小雪もちらくつほどであったので助かった。
あまりに冷えるからだろう、足は一杯飲み屋へと向かう。
先日たまたま出くわし気に入った近鉄難波駅の豊祝。
ここの吟醸あらばしりが実に美味しい。
年配の客が店員らにお酒を振る舞っている。
その上機嫌な会話を耳にしながらちびりちびりと口を潤す。
仕事後にちょいと一杯することの幸福を噛み締めていると、友人からメールが届いた。
星光28期大先輩のご子息が今回の入試を見事突破したということだった。
統一日からの定番三連チャンを無事踏破し、晴れて67期生として我々の後輩になる。
こういった報せはたいへんに嬉しい。
吉報がお酒の味をことのほか引き立てる。
当の先輩は昨年暮れの星光大忘年会において幹事のなか中心的な役割を果たし、我々はあれやこれやと面倒をみてもらった。
その頃の会話などを思い起こすと感慨深い。
心からお祝い申し上げたい。
3
盃を変え、しぼり酒に移る。
若い頃にはさして思うことはなかったが、縁というものの不思議をこのところますます強く感じる。
縁というものは、その場その場何かの拍子に現れ出るようなものではなく、いつまでもどこまでも気が遠くなるほどに連なり続く数珠つなぎな現象といった類のものなのだろう。
ふと又従兄のことが思い浮かぶ。
私と一文字違いの名を持つその又従兄は星光出身であり市大医学部を出て医者をしている。
その存在をことさら気に留めることもなかったのであるが、はからずも私は星光を卒業し友人や先輩はやたらと市大医学部出身者だ。
不思議でも何でもないようなこととも言えるが、そこに何か縁があると見て生きる方が汲むところの多い人生となるに違いない。
再び盃を変えてもらってあらばしりに戻る。
横に立つおじさんがこちらに何度も視線を向けてくる。
袖振り合うも他生の縁、話し相手にでもしようと機を伺っているように見える。
その又従兄に会いに行こうと思いつく。
会えば何十年ぶりとなるだろう。
4
一日のはじまりには全く頭にもなかった思いつきを抱えて帰り道につく。
あまりに久しぶりなので照れくさいような気もするが、又従兄のことが頭に浮かんだこと自体に何か意味があるような気がしてならない。
深読みすれば何かのお導きだという解釈だって可能だろう。
会わずに済ませば無だが、会えば何かしら学びがあって得るものもあるに違いない。
そのように考えつつ、ひと駅手前で電車を降りる。
二次会は家での夕飯。
坂越漁港の牡蠣が待っている。
素面のフリが上手にできるよう半時間ほど歩くことにする。
カラダは引き続きポカポカ、酔いを覚ますのにちょうどいい。