一足先にわたしが到着した。
順番を待つため店外に置かれた丸椅子に腰掛ける。
先に2組が待つ。
時間帯から考え20分から30分は待たないといけないだろう。
そう目星をつけていると二男がこちらに向かってゆっくりと歩いてきた。
約束の時間どおり。
わたしの横に彼は腰掛けた。
ここから30分。
男同士の会話が始まった。
制服を着て通学するように。
そう先生に注意されたという。
当たり前の話である。
いくら夏休みとは言え制服以外で通学している奴などわたしは目にしたことがない。
サンダルに真っ赤なTシャツ。
こんな蛮カラぶりには早稲田が合う。
制服の話からそんな結論になった。
ところで留守中はどうしていたのか。
親が旅行に出かているあいだ羽を伸ばしていたに違いないと思っていたが、そのとおり。
遊びに来た友人らは感心して口々に言ったという。
家、広いなと。
家が広い、という話からだしぬけにわたしはハトコのことを思い出した。
一回り以上も歳上だった。
わたしにとって巨大な兄のような存在であり頼もしくかっこよかった。
家は広く大きくその豪邸を訪れる度、気が済むまで遊んでもらった。
やたらと話が面白かった。
ユーモアあふれるキャラクターであることは、出演したプロポーズ大作戦のフィーリングカップル5対5で、男子5番目の席にハトコが座っていたことからも裏付けられる。
33期でいえば、ソウケイジくらいでないと5番目は務まらない。
泊まりに行ったある夜のこと。
ハトコの部屋で夜更けまで話を聞いた。
ギターを弾いてくれ、弾き方を教えてくれた。
そんな合間、医者になるつもりだという話をしてくれた。
その夜の場面をわたしはいまも忘れていない。
そして、いつしか疎遠になった。
従兄弟や再従兄弟でも家同士の交流がなくなれば疎遠になる。
その後、わたしは大阪星光に入った。
ハトコも大阪星光に通っていたと後で聞かされた。
市大の医学部を出て晴れて医者になったことも後で知った。
同じ星光に通い、名のうち一字が異なるだけで大違い。
しかし、一字異なるだけであるから愛着あっていまも兄のように思う存在であることは変わらない。
便利な時代になった。
自動入力となるわたしの名の一字を変えて検索すれば、ハトコがいまどこで何をしているのかがたちどころに分かる。
トライアスロンなどにも取り組んでいると分かるから頑健、やはりうちの家系の男衆の一人なのだった。
梅田の地下街にてわたしは一字違いの「男」について二男に語る。
わたしが青く未熟で右も左も分からないような頃にそんな兄のような存在がいていろいろ相談できたらどれだけ心強かったかしれない。
頼りになる人物にアクセスできるかできないかで人生ゲームの展開は様変わりする。
その有無は命運を左右しかねない。
おそらくいつかまた会えるのだろうと思う。
なにしろハトコであるし、第一、わたしたちと同じ星光生である。
星光の先輩は全員が兄貴のようなものであるから二重で兄貴ということになる。
そこまで話したところで、ピンクのスカートも鮮やかに白のシャツとの組み合わせがグッドセンスな家内が現れた。
ピシッと決まって颯爽としたお出ましだったので、その一角にスポットライトが当たったかのようであった。
そのタイミングでカウンターに案内されたから、いつだってドンピシャの家内である。
おまかせで頼み、家内は2万語、わたしは1万語をもって、かわいい二男を挟み撃ちにした。