帰宅すると家がキレイになっていた。
隣家の奥さんに清掃サービスの業者を紹介してもらったのだという。
なるほど、プロの仕事。
普段手の届かない箇所まで掃除が行き届いている。
一日の終わりに家がキレイだと気分がいい。
あとは息子の帰りを待つばかり。
時計はまもなく10時。
そろそろ戻ってくる頃合いである。
この日、送信したはずのメールがすべて消え去るという事態に見舞われた。
送信済みのフォルダにも下書きフォルダにも見当たらない。
しっかり丁寧に書いた文章まるごとネット空間のバミューダ海域に呑み込まれてしまったようであった。
しばらく途方に暮れてから、記憶の断片を手がかりにメールを一つ一つ再現し再送することになった。
毎日かなりの量のメールを書いて苦痛を覚えることは全くなかったが、再現再送作業はかなりの骨折り、苦行と言えた。
そのようなロスタイムを含めても帰りが9時だから上々だろう。
働き方改革はわたしには不要と言える。
子が一人帰ってきて、また一人帰ってきて、家族が顔を揃えた。
明日の支度などし始める彼らの様子を眺めつつ、先日、友人らとした会話を思い出す。
一人が、もう一人に言った。
「仕事は誰かに任せて楽をすればいい」
しばらく沈黙があって、言った本人含めて皆が気づいた。
とてもではないが、誰かに任せられる仕事ではない。
自身でがっぷり四つに向き合うしかなく、楽などあり得ない。
それが各自の定めなのであった。
わたしたちには仕事を替わってやってくれる清掃サービスのようなものは存在しない。
おそらく学業も同じこと。
やるのは他ならない、自分自身。
そう芯から知ってそうするための、人として欠くべからざる営為と言えるのだろう。