寺田町駅で降り玉造筋に向いて歩いて約5分。
何の変哲もないマンションの6階に入口がある。
が、そこには店名を示す看板もなければ表札も掲げられていない。
ドアを開けるのが躊躇われる。
開けてびっくり、誰かの住居。
そんなことがあってもおかしくない装いである。
しずしずとドアを押し開いてみた。
扉一枚隔てて、そこは異世界。
品あって幽美な設えの空間が姿を現した。
ありふれたマンションのドアが非日常の世界に通じているようなものであった。
奥の座敷に案内されて、更にその奥、店内最高峰の上座へといざなわれた。
着席と同時、宴がはじまり絶品のふぐ料理が引きも切らず運ばれて、注がれるままビールを飲んでそのうちそれが白ワインに変わってヒレ酒も折り混ざった。
何もかもがおいしかったが噂に違わず焼きふぐが極みの味わいを醸し一口ごとに言葉失い美味の余韻に沈思すること数度となった。
ドクター・オクトパスの粋な計らいによって催された食事会であったが、この日、若き後輩らに伝えるべき結論は至極単純なものであった。
例外的なケースを案じてばかりでは前に進めず、縁あってそれほど嫌でなければ、連れ合いはあった方がいいとの原則に身を任せ、いるといないのとでは雲泥の差なのであるから多少の良し悪しなど問うことなく、いれば何かと頼りになって長い目でみればみるほどそのような機会が増えるに違いないので短気にならず気長に考え、添うか反るかと迷った際にはまずは添う、としてみるのがドアの向こうによい未来を現出させる最も順当な選択になるのではないだろうか。