二男を連れて事務所に向かった。
ここ数日で幾分か寒さがやわらぎ、僅かではあるが春の匂いを風に感じる。
二男が大学入試を終えたのはついこの間、一年前のことだった。
また同じ季節が巡ってきて、思う。
やはり、春は素晴らしい。
月の初日であるから谷六の駅を上がってまずはまっすぐ神社を目指した。
隣り合って歩き、その体躯と面構えに触れふと感じた。
無限の精神がそこに宿っていて、その広大無辺を思えば、ひとつの小宇宙が歩いているも同然。
あっという間に大きくなって、この宇宙はこの先もっとでかくなる。
神社で並んで手を合わせ、頭を下げた。
わたしは小宇宙の豊穣を願い、一方、二男の方はおそらくは上の空でただわたしの動作を真似ただけだろう。
いつか子を持つ親となれば合わせる手に力が入り、頭の垂れ方もごくごく自然になるに違いなく、信心といったものに目覚めるはずである。
それまでは上の空であるのも致し方あるまい。
途中でスタッフのため奮発してスペシャル弁当を買い、息子の手に持たせ一緒に出勤した。
二男はこの日の夜に帰京する。
汽車の時間まで仕事を手伝いあちこち動いてもらうことになるから、今日3月1日が彼の記念すべき事務所デビューの日ということになる。