ノンアルで夕飯を済ませ、家で静かに過ごしていた。
そろそろ寝床に入ろうと思ったとき、電話が鳴った。
何かトラブルか。
胸騒ぎを覚えつつ電話を取った。
カネちゃんからだった。
いま近くにいるのだという。
ジーンズにパーカーを羽織って駅前に出た。
場所は「縁ぐち」。
このあたりでは最もおいしい料理屋である。
森先生もご一緒だった。
タイガースはこの日も見せ場すらない体たらくだったという。
が、それでトラキチが意気消沈することはなかった。
タイガースへの愛が語られ、さすが医師会の野球部メンバー。
野球談義が実戦に裏打ちされた精緻な技術論へと発展していった。
バットの軌道のあるべき姿が武道における打撃との比喩で語られ、内外角への投げ分けが視線を誘って結果それが腰の動きをも操ることになる、といった話や、左打者のストライクゾーンの二重性といった話が身振り手振りをもって交わされるから、攻守交代が忙しく椅子など不要という話であった。
これをYou Tubeで流せば野球漫才としてめちゃ面白くてタメになる。
そう思えた。
続いて医療の話になって、野球以上に話が熱を帯びその会話から両者が有する志の高い仕事観と奥深い倫理観を垣間見ることができた。
そんな会話に耳を傾けつつ、わたしは思った。
いま眼前にいるのは二人であるが、辿っていけば一グループを形成する面々が他に十数名いて、全員が並外れた熱量を有しその懐の深さは底知れない。
だから、この場にいなくとも誰もがありありとした存在感を放っていて、そして、そんな戦闘力の高い医師集団が、近々ひさびさに勢揃いすることになる。
例えれば全仮面ライダーが集結するような話と言えて、一堂に会したときの活性と躍動を思えば、どう考えてもやはり椅子など不要だろう。
そんなことを思いつつ店を後にし、一緒に駅まで歩いてそこで解散となった。
二人の背を見送って、思った。
さあ、頑張ろう。
溢れ出す二人のエネルギーに感化され、わたしも俄然元気になった。