かなりの人気店なのだろう。
開店前から列ができ始めていた。
慌てて夫婦で並ぶが前から数えて二十番目あたりとなってしまった。
午前8時半、福井マラソンのスタートと同時、名店「はや川」が開店となった。
が、マラソンのようには前へと進まない。
遅々として進まぬ列のなかわたしたちは15分以上、手持ち無沙汰な時間を過ごさねばならなかった。
羽二重くるみを自宅用と事務所用の他、きじ歯科を家内が月曜に訪れるというから貴治先生の分も買い求めた。
それで朝の用事は完了し、わたしたちは部屋へと戻って「ムービング」の続きを見始めた。
端から観光が目的ではなく、休息が目当て。
春の陽気に包まれた日曜日、蕎麦とジムのために部屋を出た以外、どこへも出かけずわたしたちは部屋にこもった。
午後4時になってチェックアウトし、開花した桜でも探そうと駅前で自転車を借りた。
のどかな光景を左右に眺めつつ、爽やかな春の風に吹かれて足羽川を自転車で疾駆した。
すっかり心まで洗われて駅へと戻る道中、タクシーの運転手が必ず見ておいた方がいいと勧めてくれた養浩館庭園も訪れた。
広々とした景色のなか野鳥が空を行き交い、木々の匂いが鼻腔に心地よく庭園をせせらぐ水の音と相俟って、内にこびりついた都会仕様の時間がみるみる歩みを緩めていった。
そんな光景を写し取り、心はいつしか整った。
部屋で休息しているよりはるかに上質の安らぎが降って湧いたのだった。
胸のうちに生じた静謐を運んで駅へと戻り、ちょうど夕飯の時間。
地元で人気だという居酒屋「善甚」を予約してあった。
そして、これがダメ押しとなった。
出てくる品ぜんぶが美味しく、わたしたちは大将に賛辞を送り続けることになった。
隣に座る地元の方々とも意気投合し、福井の人の誰もが心穏やかで優しいからわたしたちの心に芽吹き始めた福井愛はここで一気に開花した。
しかし、あっと言う間。
名残惜しいが、汽車の時間がやってきた。
このほど新幹線が開通したばかりの福井を訪れ、正解だった。
また来よう。
夫婦で再訪を誓い、わたしたちは帰阪の途に就いた。