福井駅の真隣に新しいホテルができた。
夕刻のニュースで紹介されていて、ジムのサウナを出てすぐに予約した。
特に何か観光する訳でもなく、汽車に揺られて福井を訪れただのんびりと過ごす。
是非ともそうしようと思い立ったのだった。
敦賀までのサンダーバードと、このほど延伸となった北陸新幹線の切符も併せてネットで手配した。
そんな素朴な一泊二日を心の支えに一週間を乗り越え、土曜の朝、家内を伴った。
大阪駅で駅弁を買い、もうその段階で旅情が盛り上がった。
汽車に並んで座ってそれだけでも実に楽しい。
福井駅に着いてすぐホテルにチェックインし荷物を置いた後、ロータリーにてタクシーに乗り込んだ。
福井と言えば日本一の蕎麦処である。
おいしい店について運転手さんに助言を求め「きょうや」がかなりの人気だというのでそこに向かってもらった。
順を待つこと30分。
まずは最初に太打ち蕎麦に舌鼓を打った。
一体いままで食べてきた蕎麦はなんだったのだろう。
そう思わざるを得なかった。
続いて細打ち。
これも好み。
追加のせいろも合わせて結局夫婦で四人分の蕎麦を平らげることになった。
滑り出し上々。
GOでタクシーを呼びホテルへと引き返し、ジムで一汗かいて部屋でくつろぎ、「不適切にもほどがある」の最終回を見終えたところで再び街へと出た。
夕飯は街の寿司屋を予約してあった。
大将が親切でネタもうまい。
が、いかんせん店が手狭に過ぎて、窮屈さが上回った。
次第に苦しくなって、これではせっかくの旅が台無しになる。
夫婦間に悪い空気が生じぬよう、わたしたちは早々に退散することにした。
翌日に福井マラソンが行われるとのことでその景気付けだろうか。
打ち上がる花火を眺めてのどかな往来を駅方面へと歩いた。
食べ足りなかった分を駅蕎麦で満たし、旅情にひたって駅前の広場をぶらつき、ライトアップされた恐竜のモニュメントの前で立ち止まり恐竜たちを凝視した。
夫婦それぞれの胸に浮かぶのはちびっ子当時の息子たちの姿であった。
恐竜の図鑑やおもちゃを手にやたらと恐竜にご執心だった二人のハナタレ坊主時代を懐かしみ、家内がしみじみと言った。
小さかった頃に子どもたちを福井に連れてきてあげればよかった。
恐竜をみてどれだけ喜んだことか。
当時わたしは土日もないほど忙しく、息子たちもあれこれ習い事などが始まって忙しく、だから輪をかけて家内も忙しかった。
でもそのおかげ。
息子二人は強く逞しく恐竜化していった。
そんな過程を夫婦で辿り直して追想に耽るなど旅の当初には思いもしないことだった。
旅情は時間をも縦横に巡り、図らずも日常の世界を押し広げてくれるのだった。