日課である運動は欠かさず、朝、トレッドミルで走りはしたが二度寝して昼まで女房と部屋で過ごした。
ホテルから東京駅へと少し進めば食事処が目白押しで昼食の場所は選り取り見取りだった。
休み気分を満喫しわたしたちは昼から居酒屋に陣取った。
料理が凝って実に素晴らしくて接遇も申し分なかったからお酒が進んだ。
ほどよく酔って、そこから女房の買い物に付き合って表参道へと出た。
いろんな店をわたり歩き、最後はジャイルに立ち寄ってインテリアなど選んだ。
地下のフロアの所々に書棚があって、そのラインナップが目をひいた。
聞けばバッハの幅充孝さんによる選書とのことであった。
いい出合いを喜んでわたしは一冊を手に取った。
買い物を終え銀座線で新橋まで出て京浜東北に乗り換え蒲田に向かった。
ホームに流れる蒲田行進曲のメロディを聞きながら、わたしたちは東京屈指の下町へと歩を進めた。
家内の後をついて歩いてわたしは訝しんだ。
訳あり顔で路上に女性が立ち、飲み屋街というより風俗街といった趣きの一角に店があった。
なんでと問いたげな顔をするわたしに家内も言葉はなかった。
料理教室の先生が勧めてくれたベトナム料理の店だとのことだったが、一杯食わされたのかもしれなかった。
入るのが躊躇われるような小汚い雑居ビルを眼前に足がすくむ。
が、予約したのだから仕方ない。
意を決して狭い階段を上がって中へと入った。
店内は喧騒のうちにあり窮屈な場所に人がぎゅうぎゅう詰めで、息苦しさを覚えた。
予約した旨を家内が告げた。
が、店員はぶっきらぼうに言った。
そんな予約は聞いてない。
家内は通話履歴と日時のメモも見せたが、知らぬ存ぜぬの一点張りで店員は横柄なまま態度を硬化させるばかりだった。
普通なら腹立たしい思いになるのだろうが、わたしは大いに喜んだ。
ここで食事せずに済む、ああ助かった。
神様が気を利かせ門前払いしてくれたのに違いなかった。
東京へと引き返す道中、銀座8丁目にいいベトナム料理の店があると分かってそこで出直すことにした。
店は清潔で広々としサービスは行き届き料理も本格的でいい食事の時間を過ごすことができた。
そして食べた後は歩きたくなる。
丸の内仲通りから東京駅を経由する30分ほどの道のりを楽しく喋って辿り、ホテルへと戻った。