KORANIKATARU

子らに語る時々日記

いつかバトンタッチ

土俵際にまで追い込まれるような心境になる夜、ベッドに入るも眠れない。
無音の大風雨とともに、数々の仕事の断片が凶器のように強く降り注いでくる。
半身起こし沈思する。
内面では地が割れ空裂け突如嵩を増した仕事量が押し寄せる、ムンクの叫びみたいに戦慄し続けるような時間が続く。
救援はやってこない。

結局、半睡もままならず、真夜中仕事に出かける。
じっとしてはいられない。
私がやるしかないのだ。

眉間に皺寄せつつぐっとこらえて何とか持ち堪える。
全部のスイッチを切って、不吉な映写から逃れ、頭から毛布被って尻が出ていようが何であろうが、そのまま、イナイイナイバー決め込み、夢見の世界に逃れられたらどれだけいいだろう。
しかしそんな空想で心に隙ができればできるほど、風雨が激しさを増し、身中ワナワナ、建て付けの悪い木造2階建てみたいにガタガタ震え、倒壊寸前となる。

圧倒的に負けている状態では、手の打ちようがない。
空元気で太刀打ちできるものではない。
負けを受け入れることから始めるしかない。

敗北を恐怖しているから往生際が悪くなる。
仕事をテキパキ片づけてええかっこしたい、おおすげえと仕事っぷりで相手を唸らせたい、そんな子どもじみたイメージに執着しているからジタバタする。

仕事に追われた時点で、すでに負けているのである。
負けを認め、負けのイメージに馴染ませて行く。

どうなるか、、、

仕事が締切りに遅れる、説明に苦慮する、信用を失う、お客さんが離れる、悪い評判が駆け巡る、あいつはアホだ無能だと陰口言われる、収入が減る、、、

それで、それで、、、

生活レベルが維持できなくなる、家族が路頭に迷う、女房子どもにも愛想尽かされ、邪険に扱われる、近所で肩身が狭い、、、

それで、それで、、、

暇になる、ぐっすり眠れる、たっぷり休養ができる、当分食いつなぐ程度の貯金はあるし、家でも売れば当面困らないだろう、やりたかったいろいろなことに取り組む時間が出来る、、、

そうなったら、旅行にも出かけおいしいもんでもたらふく食べよう、勉強もしよう、新しい仕事にも挑戦しよう、捨てる神あれば拾う神もあるだろう、敗北からのスタートも悪くないかもしれない、、、

風雨が止む。
土俵際、力がふっと抜ける。
負けっぷりすら楽しもうという意気込みとなる。
晴れ晴れとした気分で、どれどれと、仕事の軍勢を押し返す。
負けるが勝ちとはこのことだ。

古今東西、すべての男達がそうであったように、誰だって、最後は必ず負けるのだ。
清々しく立派に負けて、後は、そう、後に続くものが立ち向かえばいいのである。

そう考えればやることなすことなんだってリレーみたいで実に楽しく取り組める。
自分が負けるところまでやり抜けばそれで十分なのだ。
後は、出番を待つ優秀な人物の力を信じよう。
彼が立派にやり遂げる。