KORANIKATARU

子らに語る時々日記

アナザー・プラネット

事務所に来てまずはコーヒーを淹れて飲む。
やがて心うきうきとっても不思議このムード、みんな陽気に飲んで踊ろうコーヒールンバ、と真っ暗な明け方ひとり口ずさむ。
日曜日、焼肉亭高橋でたらふく肉をかき込んだ子らの威勢いい食べっぷりを思い出しつつ、仕事への意欲を徐々に高めてゆく。

子供ががつがつ食う姿はいつだって仕事のモチベーションアップに大きく寄与してくれる。
さあ、束になってかかってこいとぶちぶち感がとめどなく溢れてくる。
ぶちぶち感というのは、ぶちぶちにしたる、というときのぶちぶちのことである。

やわな常人にはとても持ちこたえられないだろうという忙しさだが、体調はすこぶるいい。
仕事ばかりしているが週末久々に事務所から自宅まで家内とウォーキングした。
途中雨が降り始めたのでビニール傘を二本買って尼崎の神田商店街でだけ雨がしのげたがそれ以外は濡れそぼりながらぬかるんだ道を歩いた。

ちょうどその日facebookで事務所界隈野田の庶民的雰囲気について、友人らに説明したところであった。
サンダルばきで自動販売機のコーラ買うおばさん、パジャマみたいな格好でマクドミスドに子連れで入る若きママちゃん連中、おっさんだらけの餃子屋や牛丼屋で持ち帰りの列に並ぶお母ちゃん達。
飾りっけも気取りもない、生活感たっぷりで肩の凝らない町の空気である。
尼崎も瓜二つ、淀川を越えたところに鏡の国が現れ、同じような、もしくはやや倍加した世界が広がっていて、そのくつろぎ感でとても呼吸が楽になる。

缶ジュースは直接飲むなコップに注げ、店屋物はそのまま食べるな皿に盛れと、きつく躾けられた身からすれば、いつ訪れても堅い事など一切抜きの雰囲気がのびやかで実にいい。

武庫川を渡り、しばらく進んでお家にやっと到達。
映画アナザー・プラネットを観るつもりであったが、夢屋のバケットやクルミパンにチーズ、トマトリゾット、生ハムを乗せて食べると赤ワインがやたらとおいしくお酒がすすみ、ユーミンのベストを流しつつ、昔話に花が咲き、子も交えて談笑しつつ風呂入ってあっと言う間に一日が終わった。

それで翌日奈良から戻って事務所でアナザー・プラネットのDVDを流しつつ仕事していた。
ラストが鮮烈。
全編がラスト数秒の映像のための前フリとも言える。
えっと息を呑んだ瞬間にカットアウト、強い音楽と同時にエンドロールが始まる。
くっきり鮮明に余韻が残る。

もう一つの地球があり、そこにいるもう一人の自分のことを想像してみる。
この地球の完全な複製物でありすべてが同期しているが、二つの地球がお互いを認識した時点から差異を生じ始める。
そこにいるもう一人の自分が辿る運命のことを考えてみる。
それは幸福なものなのだろうか、あるいは苦しみに満ちたものなのだろうか。

自分だけでなく家族や仲間についても思いめぐらせる。
この地球上で起こる運命と別様に展開する人生はどのようなものなのだろう。
不幸にも早世した子供達や不運に見舞われた人々が、一方の地球では元気に暮らしているのかもしれない。
あるいは、その逆であるのかもしれない。

もう一つの地球の実在を信じる信じないという話ではなく、そのイメージが本質的な何かを照らし浮かび上がらせる。
遠くの星を見上げその地平を凝視する視線が、反転してこちらの内面に戻ってくる。
視線が、ぐるりとまわって、ここに還ってくる。
もう一つの地球にいる自分のことを考えることは、他者のことを考えることと全く同じことだと気付く。
すべてはここに存在する。

みなが幸福であることをごく素直に祈りたい境地に達する。
とてもいい映画であった。

余韻に浸りつつ、普段通りよれよれの格好で帰宅する。
チャリティーでもらった服を寄せ集めたような装いだ。
でもこの日カバンだけは家内のブランドバッグだった。

雨で自分のがまだ濡れたままだったので玄関先にあった嫁のカバンに荷物を詰め込んだのだった。
しかし書類屋にとってそんな高価なカバンには何の意味もない。
それで呼び覚まされる自負心も高まるセルフイーメジもない。

煮ても焼いても食えたものではないし、臨終の間際そのカバンが私の走馬灯を美しく飾ってくれる訳でもない。
家族と共有する空間や時間の方が遥かに大事だろう。
かつかつの書類屋の所持金は猫の額より狭い。
こんなの買うなら、ぼろは着てても連れ立って旅行するなり美味いものを分け合って食べる方が余程ましである。
男子がカバンなんかでええかっこしようなどゆめゆめ思ってはならないときつく君たちに忠告しておく。

私が買って帰るレモンを待ってお家で夕飯。
オイスターと有頭エビにレモンを絞る。
噂で聞いていたはらんぼのじゃこ天が絶品であった。

冬、とりあえず家族で出かけるなら赤穂坂越漁港だと家内と意見一致した。
美味い海産物を欲しいまま無尽蔵に堪能することができる。
夕飯にさくらぐみの予約も忘れてはならない。
クルマで行ける竜宮城、美人がいるかどうかは不明だが、海の幸のおもてなしは最上、夢見るほどのとろけ具合になること必定である。