KORANIKATARU

子らに語る時々日記

歯科医は星光出身がいい。


たかおか歯科クリニックは尼崎の大物駅の真横、改札と接続するかのような近接の場所にある。

私が2号線稲川橋の交差点で信号待ちしているとき、そこを左に折れてクルマで1分という場所、高岡歯科クリニックで家内は診察を受けていた。

数年前、33期の同級生である高岡先生が大物で開業していると知った。

数々の歯医者を手こずらせて尻込みさせてきた私の親不知を2本、まるで居合抜きするみたいに一瞬で抜き去ってくれたのが高岡先生であった。
あまりにあっという間であり痛みやら恐怖やらを感じる間すらなかった。

以来、うちの家族だけでなく家内の家族や友人も高岡先生を頼りにすることとなった。
高岡先生の誠実な人柄に触れれば、他所の歯医者とは縁遠くなっていく。

歯科医は星光出身がいい。
星光出身なら、善良かつ親身、腕も確か、そう踏んで間違いない。

高岡先生など、顔見た瞬間に全幅の信頼置ける人物だと分かって安心、あんぐり口開けて後はお任せ、診察台では大船気分で過ごすことができる。

日本歯学の最高峰、東京医科歯科大学卒。
スキルはハイレベル、処置は手厚く、学識も高い。
歯科医については玉石混交。
どうせなら石より玉という先生に診てもらった方がいいだろう。

今日の夕飯はどうしようと私が尋ね、家内は、「今、たかおか先生のところ」と答える。
じゃあ後で、と電話を切った。

家内もクルマで来ているので迎えは不要。
私はクルマを西へと走らせた。
喉もカラカラ、家でビールでも飲みながら家内の帰りを待つとしよう。


帰宅する。
金曜夕刻、家は留守。

二男は研修館。
今度の日曜にどこか登山しやっと帰ってくる。
共同生活経て少しずつ少しずつ成長していくのだろう。
次は8月、黒姫山荘。
夏の信州はさぞかし素晴らしいだろう。

長男は学校のスーパー講座。
大学入試レベルの内容と格闘している。
英数ますます磨きがかかるが、週末の帰りは遅くなる。
9月のラグビー県大会が終われば、すぐに10月。いよいよアメリカ留学だ。

濃縮されたみたいに中身詰まったあれやこれやが押し寄せては去っていく。
あっという間に月日が過ぎる。


家内が夕飯の支度をする間、ケーブルテレビで流れる映画リプリーを漫然と眺める。

イタリアの風光明媚とジュード・ロウが融合すればこれこそまさにアトラクティブ、醜悪腐臭の俗世間には目を背けこちらの胸に顔をうずめたくなるといった主人公のゲイの心も理解できると頷いて、はてさてこれからどうなるのだという話の佳境で食事の用意が整った。
テレビを消す。

家内と二人での食卓となる。
鶏肉のサラダ、アサリの和え物、富山豆腐をつまみながらの晩酌。

夏の旅行について話し合う。
佐渡ヶ島はどうだろう、四方八方が日本海というのも面白い。
私がそう言ってみたところで家内はぴくりとも反応せず、北海道という話となった。
今度は道東、釧路や厚岸、阿寒湖と屈斜路湖を経由して知床、網走方面を回ろう、と決まった。

ラグビー合宿の日程を確認し、早速ネットで予約のため検索し始めた。
釧路は遠く女満別も遠く、関西からでは空路の本数も限られている。

こじんまりとした地域なら近隣に降り立ちレンタカーで動けばどうにでもなるが、北海道はやたらとでかい。
千歳や旭川に着陸したところで、そこから目的地までは鉄道でもクルマでも4、5時間かかる。

私は投げ出した。
フリープランはあきらめ箸の上げ下ろしまで指図されるような典型的なツアーに身を任せればいい。
広い北海道、少しくらいは窮屈な要素があってもいいではないか。

若い頃は予約など何もせず身一つぶらり旅したものであるが、もう四十代半ば、面倒なことはなるたけ少ないほうがいい。


午後8時半を過ぎても長男が戻らない。
少し心配になってくる。

と、そのとき自宅の電話がなった。
慌てて家内が電話に出る。

家内が電話の向こうに一方的に話し始める。

私たちはいま子の帰りを待っています。
こんな時間に電話が鳴ってヒヤリとしました。
あなたは、私の子ではないですよね。
何で電話してくるんですか。
びっくりするではないですか。
大切な用事でもあるんですか。
うちは子の帰りを待っているんですよ、それよりも大事な用ですか。
私たちの子でないのにこんな時間に電話してこないで下さい。

営業の電話だったようだ。
二度とうちには電話してこないだろう。

少しして、門の開く音が聞こえた。
家内は腰を上げ夕飯の支度に取り掛かった。

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