取り置きしているというので、夕方、商店街の魚屋に寄った。
戻りガツオにヒラメに赤貝。
家内が選んだ品をもらう際、ついつい中トロも目に入り追加した。
刺身を包んだ袋に氷を添えながら、店のおばちゃんが言った。
奥さん、切れるか?
中トロを追加で買って怒る訳なく喜ぶだろうと思って、切れない、切れないとわたしは答えた。
ほな、切っとくわ。
おばちゃんが刺身を袋から取り出そうとした。
それでようやく意味が理解できた。
家には中国400年の名刀、張小泉の包丁もある。
しかも家内は料理の達人、魚もさばける。
刺身を切るなどお茶の子さいさいである。
切れる、切れるとわたしは前言を撤回し、そのまま刺身を受け取った。
そんなやりとりについて助手席に座る家内に話しつつクルマを走らせ家路についた。
家に着くなりいつものとおり家内は夕飯の支度を始め、ちょうど二男が戻ったタイミングで食卓を囲んだ。
中トロと赤貝は、わさびと醤油。
ヒラメはポン酢。
カツオはネギをたっぷり添え麹を入れた生姜醤油で食べる。
甘みあって歯ごたえあって、全種の刺身にわたしたちは唸った。
あまりに美味しいからだろう。
家内は自分の分の刺身を残し、長男のための皿に追加した。
そもそも子らの方が多くなるよう取り分けてあったので、母子の分量の差は著しいものとなった。
さすがに母。
息子の喜ぶ顔を見る方が自分のお腹を満たすより嬉しいことなのだ。
メインを終えて、デザートは柿。
その甘味にとろけていると、電話が鳴った。
午後8時過ぎの電話に胸騒ぎを覚える。
何事だろう。
二男が受けてそのまま話す。
塾からだった。
定期考査が間近なので、今回もまた無料で化学の講座が開かれるのだという。
塾のチューターである大学生が買って出て、試験前になると化学の面倒をみてくれる。
在塾する星光生66期全員が対象だ。
学校の化学がまったく分からない。
そんな星光生の声を受け、塾が救済に乗り出してくれたのだった。
息子が言うには、分かりやすくてためになる。
だから塾に通う生徒の化学の出来はかなりいい。
これもひとつの自助努力。
星光の若い教師が、塾不要の教育を目指し頑張っても限界がある。
時間許すなら、塾には通った方がいいかもしれない。
交流が広がるし刺激にもなる。
おまけにこういった助け舟まで出してくれるのだから、損することはないだろう。