夕刻、雨はほぼ降り止んでいた。
だから長男は雨具を持たずラグビーの練習に向かった。
ところが宵の口になって雨足が強まった。
彼が戻ってきたのは夜の11時前。
どこかで泳いできたみたいにジャージが水浸しとなっていた。
ハードにカラダを動かし雨にも打たれ、さぞや思い出深い練習になったことだろう。
彼の帰宅を確認し、わたしは返却予定の迫った映画「レヴェナント」を見始めた。
二男は遊び疲れたのかすでに寝支度を始めている。
この日彼の友人らが我が家を訪れ、小雨降るなか暗くなるまで公園を走り回っていたようだ。
静かな滑り出しで映画が幕を開ける。
が、ものの数分で圧倒的な迫力の映像にわたしは鷲掴みされた。
漫然と大自然にカメラを向けたといったイージーな映像の類とは一線を画している。
対象を捉えるアングルが創意工夫に富み、あらゆる場面がリアルに迫ってくる。
たかだが数十センチ四方の画面に映る世界が、日常の風景を塗り替えるかのよう。
わたしは19世紀アメリカ北西部の地へと瞬く間に引き込まれ、息を呑みそして驚嘆させられっ放しとなった。
眼前の光景があまりに手付かずの大自然であるからだろうか。
原始の記憶のなか没入するかのような感にとらわれた。
自然はどこまでも苛酷であり、生き延びることは生易しいことではない。
幾多の窮地を乗り越えサバイバルしてきた祖先らの極限をそこに見るような思いとなる。
見終えてもしばらく画面から目を離せない。
人類の遺伝子の奥の奥に格納された遠い記憶に触れたようなものである。
それを追体験したみたいに強い感動が込み上がる。
ほんとうに凄い映画であった。
誰かに伝えたいが、二男はすやすやと寝入っている。
長男はまだ起きていた。
明日の試験に備え真夜中になっても引き続き勉強に励んでいる。
その様子を覗き込むが、長男はわたしに見向きもしない。
邪魔せぬようそっと彼の肩を叩いてエールを送り、わたしはベッドに潜り込んだ。
映画については今度話すことにする。