夜10時、普段は一人で帰るがこの夜は上の息子が同乗していた。
いつもは一人で聴く音楽を二人で聴きつつ、夜、照明も控えめになった日曜の街路をしずしず走る。
父子横並び。
ぽつりぽつりと会話する。
受験の話、将来の話、そして昔話になった。
クルマという密室が移動し、心は内面へと向いていく。
彼のなかいろいろなエピソードが蘇りはじめたようであった。
やがてそれらにまつわる誰かのことに記憶の焦点が当たっていく。
様々な場面で温かな声をかけてくれた人がいて、力づけ励ましてくれた人がいた。
ラグビーのコーチや塾の先生、友人の母親といった面々が彼の胸のうち巡って、無骨であっても感謝の気持ちのようなものが込み上がったようだった。
感謝の気持ちが成長の証。
少しずつ一人前の男子に近づいているということなのだろう。
家に戻ると、美味しいさわらがあると家内が言う。
焼いてもらい、二人でハイボールを注ぎ合った。
交わされる会話のテーマは子育て。
周囲見渡しつくづく思う。
男子育てることは一筋縄では行かず茨の道。
そんな話になった。
まるでラグビーボール。
思った方には転がらず、跳ねて弾んでどこへ行くのか見当もつかない。
たいへんだけれど、それが醍醐味。
元気よく弾んでさえいれば、どこへ行こうが構いはしない。
半ば投げやり半ば期待を込めて、そう思うしかないのだろう。
まあ、飲もう。
わたしたちはハイボールを注ぎ合った。