昼食に出ようと腰を上げたそのとき、弁当を持って家内が事務所に現れた。
おいでおいでと手招きしていた頭のなかのカツ丼に別れを告げ、わたしは会議テーブルの端に腰掛け弁当と対峙することになった。
美味しいには違いないが、惜しむらくは量が少ない。
前に座る家内にそう言ってみる。
好きなだけ食べる人は無様に見える。
確かに家内の言う通り。
節度あってこその人間だろう。
わたしは考えを改めた。
八分目程度の腹ごしらえを済ませ外に出る。
東大阪方面に約束があった。
近鉄電車の窓一面が空の青に彩られ爽快。
立体感際立つ真白な綿雲がところどころ浮かんで夏近しと告げている。
瓢箪山駅で降りる。
街路樹の鮮やかな緑が陽光を跳ね目に心地よく、吹き渡る風は清涼で更にまた心地いい。
生きているだけで丸儲け。
そうしみじみ実感できる麗らかな日和と言えた。
用事を終えてバスを待つ。
瓢箪山駅行きよりも先、河内山本駅行きのバスがやってきた。
通りを渡ってそちらに乗り込む。
はじめての路線であるので、遠足でもするかのよう。
気分浮き立つ。
ありふれた中河内の往来が新鮮に映って、束の間、旅人気分に浸ることができた。
行って帰って数時間。
僅かな時間であっても、それを味わうよう心を開けば日常のよいアクセントになる。
こういったアクセントを欲しいがままにできるのが、自営業者の利得の最たるものかもしれない。