KORANIKATARU

子らに語る時々日記

世界で一番頼りになる男

京都から戻ると既に夕刻でそこから事務作業終えると夜もいい時間になった。

だから夕飯は近所の居酒屋で済ませることにした。

 

わたしが座ったのとほぼ同時、斜め前のテーブルに子連れの若い女性が座った。

上が娘で5歳、下が息子で3歳といったところだろうか。

 

金曜の夜、子を連れ居酒屋で飯を食うなんていい度胸である。

そう思って見るともなし目をやった。

 

が、わたしの第一印象は誤っていた。

 

威風堂々ジョッキでビールをゴクリ飲み干すといった雰囲気とは正反対。

家族3人肩寄せ合ってなんとも落ち着かない様子であり、場違いに戸惑っているのが明らかだった。

 

しばらくして、息子くんの歓声が聞こえ、わたしはスマホから目をあげた。

 

息子くんが手を振って見つめる視線の向こうに目をやると、そこには長身の青年。

この家族のパパ、その人であった。

 

パパが現れただけで、家族を包む空気が緊張から安堵へと様変わりした。

 

それを目の当たりにし、やはりパパが最強とわたしは思った。

まるでコイルに鉄心。

何はなくともパパであり、歓声をあげた息子は言わずもがな、娘もママもそう実感したに違いなかった。

 

世界で一番頼りになる男、その名はパパ。

そんな場面を前に酔いも手伝ってわたしはうっかり感涙しそうになった。

 

我が子の小さい頃を思い出し、その子育てに全力投球した家内の労苦を思って、いよいよ落涙かというすんでのところ、着信があって一気に潮が引いた。

 

ご飯は?という家内からのメールに、現在食事中と今になって言う訳にはいかず、全知能を結集し、いま帰っているところ、お腹ペコペコと返信した。

 

しかし不思議なものである。

帰宅するとわたしが事務所前の居酒屋で食事してきたことは家内にはお見通しであり、とろとろに煮込まれたテールスープだけがテーブルに置かれた。

 

iPhoneを家族4人で機種変更したばかり。

何らかの設定が共有されていて、わたしがどこにいるのか筒抜けになっているのかもしれなかった。

情報共有システムであるiCloudのことはわたしの理解の範囲を超えている。

 

夕飯の要不要は事前に連絡すること、勝手に外食しないことを誓約してから酔い覚ましのスープに箸をつけた。

 

ときおり階上から、ぎゃーといった驚愕の声が響いてくる。

家内によれば、長男が自室でジョーズシリーズを鑑賞中なのだという。

 

彼はスピルバーグの思うまま、ジョーズが姿を現すたび悲鳴をあげているのだろう。

断続的に響くその絶叫が喝采の声にも聞こえ、わたしは不朽の名作の名場面を数々頭に巡らせた。

 

そしてもうまもなく、その自室は空になる。

盆や正月そのほかいつ帰ってきても大丈夫なように、留守であっても家内は掃除行き届かせ部屋を整えるのだろう。

 

いまがまさにひとつの節目なのだと肌で感じつつ、ゆっくりじっくりスープを味わった。

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2013年8月13日 未知のチームに合流してのラグビー合宿出発の場面 小5の健さん超然と佇み最後尾にてバスを待つ