新酒を飲もう。
そんな企画が早稲田三金会で持ち上がった。
それがきっかけでわたしは酒蔵の徳若を知ることになった。
もう何年も前のことである。
先ごろ大口案件でお世話になった方がいた。
日頃からお礼の品には徳若の酒を選ぶ。
それでこの日、家内を徳若に走らせた。
徳若の大将は慶應出身。
どういうわけかうちの息子も塾生になった。
家内からすれば親近感が湧く。
いつにも増して会話が弾んだ。
三金会が催す新酒の会の際、是非ともご夫婦でおいでください。
かつての慶應ボーイが家内に言った。
わたしにとって三金会は昔の思い出。
その名を聞くのは久しぶりのことだった。
かつてしょっちゅう通っていたが、あるときから三金会のある日に限って別件が入り、そんな日が続いて足が遠のき、いつの間にか案内メールも届かなくなった。
家内が徳若に行かなければ、ずっとこのままだっただろう。
いろいろな方がいて、とてもよくしてくれた。
思えば三金会はわたしにとって貴重な交流の場であった。
せっかくのご縁、ふいにするのは勿体ない。
たまたま徳若で三金会の話題が出た。
ひょんなことからまた輪に混ざり、今度は夫婦で校歌斉唱というのもいいかもしれない。
徳若を後にし家に戻り、家内は隣家の女子を食事に誘った。
家内にとって実の姪っ子みたいなものであり、向こうからすれば気っ風のいい姉御といったようなものだろう。
クルマの助手席に女子を乗せ芦屋までひとっ走り。
竹園のカジュアルなレストランで食事して、ケーキを買って帰宅し、別の隣家女子も家に招いて午後のひととき女子らはガールズトークに花を咲かせた。
仕事の合間、合間、家内からそんな報告が度々入って、微笑ましい。
面倒見のいい家内のこと。
誰かによくすることが幸せで、だから隣家に尽くし甲斐ある女子がいて得しているのは家内の方と言えるだろう。
夕刻、業務を終えサウナで息を吹き返してから帰宅した。
オールドパーを少しずつ口に含みながら、まずはカレイの煮付けに箸をつけた。
続いて、皿一面の豆腐。
上からふんだんにじゃこがまぶされ、一瞬、豪華なデザートに見えなくもないが、夕飯にそんなものが供されるはずもない。
質素極まりないほどカラダにいい。
そう思ってその柔らかな固体を噛み締めた。
学校では休校が続く。
星光では有志の先生らが機材を持ち寄って回線を開いた。
生徒の勉強の益になろうと骨身削る先生らがいて頭が下がる。
ネット回線を通じ課題が提供され添削もしてもらえ、英語についてはまもなくオンライン授業も開始される。
物理オリンピックを率いるあの先生からは日曜にも配信があった。
日頃からそう。
宿題をやってこない生徒のため朝7時に補習の時間を設け他科目含めて生徒の宿題を見る。
生徒がさぼっても先生は約束を破らず必ず7時前には出勤し生徒を待つ。
たまに日曜も仕事をしているようであるからその教師魂は見上げたものだ。
英語についても66期の先生は東大対策、京大対策、医学部対策といった講座を打ち出し、朝から晩まで生徒に付き合おうとするのだから、野球で言えば稲尾や金田や尾崎や権藤といった連戦連投の鉄腕みたいなものであり、ひとりで無理するのもほどほどにと思わずいたわるような気持ちになってしまう。
そんな先生らを擁す66期であるが、他の期はどうなのだろうか。
各学年に満遍なく鉄腕を揃えその鉄腕が張り合うように全力投球すれば星光は無茶苦茶凄い学校になりそうだが、実のところはどうなのか窺い知れない。
家内がママ友に聞いたところによれば、西大和ではFAXなどを使って添削などが行われているのだという。
生徒の勉強にコミットしようと苦心惨憺し、歯がゆい思いをしている教師がたくさんいるのだろう。
といって、予備校は平常通り開校している。
学校の先生らが試行錯誤するなか、塾では安定的に授業が行われ自習もできる。
塾に通うのが得策。
皮肉にも結論はあっけらかんとしたものになりそうだ。
そのような話を家内としつつ、この夜もすべてが前菜といった夕飯をついばんだ。
大食いからすれば、少し物足りない貧打線と言えた。
が、生ハムとトマトのサラダの次に快音が響き渡った。
すじこん。
すじ肉がいいから食べごたえがあってとても美味しい。
聞けばパルヤマトで買ったものだという。
あそこはいい食材が盛りだくさん。
終わりよければすべてよし。
いつも美味しい食事をありがとう。
わたしは家内に礼を述べた。
まもなく新学期。
部活の大会は5月に開催されるが、無事行われるのかどうか見通せない。
夫婦で楽しみにしていた二男の晴れ舞台である。
ユニホームも新しくなるはずだった。
まさかこんなことになるなど夢にも思わなかった。
単に日常が戻るだけでどれだけ嬉しいことだろう。
いいニュースが待ち遠しい。