物見遊山がてら見知らぬ町を走ろうと思ったが、雨脚が強くなる気配があったので見送った。
前日同様、フィットネスにて代わり映えのしない景色を眺めて汗をかき、それからサウナと温泉でのんびり過ごした。
家内も朝風呂を堪能し、午前11時にチェックアウトしてから隣接する日本庭園有楽苑を一緒に散策した。
まもなくホテルにタクシーが到着し、犬山焼の尾関作十郎陶房へと向かった。
部屋に置いてある陶器が上品で美しく、ひと目みて家内が気に入った。
それでホテルフロントにて作家の所在を聞き、近くにあるから帰りに寄ることにしたのだった。
陶房はまさに林のなかの隠れ家といった場所にあった。
作業場の離れに作品が所狭しと並べられていて、家内があれこれ手に取っては感嘆の声を上げた。
まずはホテルで見たのと同じものを一揃い買い求め、その他、その場で家内の心を掴んだ作品があったからそれも併せて包んでもらった。
帰りは、尾関家七代目当主その人が直々にクルマで駅まで送ってくれた。
今後家内は尾関さんの作品を引き続きウォッチし気に入れば送ってもらうことになるのだろう。
犬山駅から急行で名古屋に戻るが、名古屋はどこもかしこも混んでいた。
もちろん、いま話題沸騰中の「ぴよりん」売り場には長蛇の列ができ、味仙も矢場とんも山本屋総本家も当然に混んでいたのだが、その他、名も知らぬような店にもそこかしこ列ができ、昼を食べるのも簡単な話ではなくこれには参った。
人生行路師匠が居合わせたなら「責任者出てこい」と声を荒げたことだろう。
昼食にあぶれて空腹のまま彷徨い、通りかかって偶然、名鉄百貨店の9階にも飲食店街があると分かった。
もしやと思ってエスカレーターで上へ上へと上がっていくとそこは穴場だった。
人混みもそう簡単には9階まで及ばないのだった。
そこにも山本屋総本家があり、待ち客は5、6組に過ぎなかった。
さっきまでの光景からすれば、これはもう「閑散としている」という域と言えた。
だからそこに居を定めおとなしく順を待つことにした。
半刻もしないうちに席に案内された。
ビールで家内と乾杯し、食にありつける喜びにひたって、熱々の味噌煮込みうどん二種をふうふう言いながら分け合って食べた。
ほんとうにおいしい。
夫婦でそう頷き合った。
やはり山本屋のうどんは名古屋を訪れた際には外せない不動の一品なのだった。
食後、人でごった返す高島屋の地下で買い物し、わたしは月曜から仕事なので帰宅の途につき近鉄特急で西へと向かい、家内は新幹線で東へと向かった。
特急ひのとりのプレミアム席でぼんやり過ごして二時間後、わたしはひとり鶴橋のアジヨシの座敷に陣取った。
肉を焼いて冷麺を食べ、わたしにとっての元の時間が復元していった。
この短い旅で一度脱いだ時間であったからこそ、新たに袖を通して新鮮に感じられた。
やはり、時間がその鮮度を保つには、旅が一番。
生き返ったような気持ちでわたしは月曜の朝を清々しく迎えることになるだろう。