災害級の降雨が見込まれるとの予報にハラハラしつつ、金曜日の朝、東京へと向かった。
昼前に到着し、丸の内中央口で二男と合流した。
ずっしりと肩に食い込むほどの荷物を、黙って二男が引き受けてくれた。
前日家内が仕込んだ料理がどっさりと入っていて、今回の荷のなかで特筆すべきはシドルハニーだった。
先日、わたしの妹がサウジアラビアを旅行した。
その際、仲良くなった人から分けてもらった貴重な品、王族御用達の一品だというから、その行き先は我が家の王子様たちで決まりだった。
雨は降り止みつつあった。
だから大手町まで3人でぶらり歩いた。
近くにいる旨を長男にメッセージで送るが既読にならない。
やはり彼は仕事で忙しい。
もし時間が空いたら顔を出すようメッセージを送って、わたしたちはフォーシーズンズホテルの36階にあるレストランにて待機した。
ランチのコースを3種類頼み、3人で分け合って食べたが結局最後までこちらのメッセージは既読にならなかった。
ホテルの前からタクシーに乗り、よい出合いを期待して丸の内仲通りをパトロールするという家内を途中でおろし、わたしと二男は帝国ホテルまで運ばれた。
そこからパスポート更新のため二男は東京都旅券課のある有楽町へと向かい、わたしは一足先にチェックインし、すぐさまフィットネスに赴きたっぷり泳いで、トレッドミルで傾斜を駆け上がってサウナで汗をかいた。
部屋に戻ると家内が部屋でくつろいでいて、まもなく二男も姿を見せた。
「夜はラグビー仲間と食事に行く」
ようやく長男からそんなメッセージが届き、やむなく夜もわたしたち3人で夕飯をとることにした。
午後8時前、ホテル前からタクシーに乗って赤坂にあるハモニ食堂に向かった。
親が行く店は必ず美味い。
二男はそう期待し、そしてたいそう喜んだ。
前夜、従妹と夕飯をともにしたというが、今度はこの店に誘うと二男は言った。
来週には長男を含め、いとこ連中のべ5人が東京に集まって食事するという。
今回も東京に住むわたしの妹が食事代などぜんぶ出してくれるのだろう。
お酒が入っていつにも増して二男が饒舌に喋った。
先日は星光66期の東京の友だちらが下宿に集まって飲んで泊まったというし、早稲田の友だちもよく下宿へとやってくる。
そんな話を聞いている最中、噂をすればというやつで早稲田の友だちたちから二男に連絡が入った。
いま高田馬場でたまたま集まって飲んでるから、おいでとのことであった。
とても仲のいい友だちグループがあって、しょっちゅう飲みに誘われるのだという。
東京にやってきて、ああこんな風に息子に声がかかるのだ、ここに確かな居場所があって、長男も二男もあれこれ毎日忙しい、そんなことが親としてとても嬉しい。
二男が先に店を出て高田馬場へと出かけていった。
わたしたちもまもなく店を出て、人で溢れる通りを流すタクシーをつかまえホテルへと戻った。
家内が東京タワーについてあれこれ聞いたのをきっかけに運転手がいろいろと話し始めた。
「私も上京したばかりの頃はいつも東京タワーを目で追っていました、いまではまったく目をやることもなくなりましたが」
福島を出て上京し二十年が過ぎた。
コロナ禍が終わり東京にもかつての活気が戻って、通りを流すだけで客が引きも切らず売上も一気に増えてきた。
このところは以前より羽振りのいい若者が多いと感じる。
二十年前の自分の歳に近い。
そういうのを目の当たりにすると、売上は上がってもちょっと落ち込む。
「二十年なんてあっという間でしたよ」
運転手は笑って言った。