ジムへと向かう支度をしていると家内から電話が入った。
これからヘッドスパを受ける。
終わったあと一緒にご飯を食べよう。
それでわたしはどちらかと言えば喜んでジム道具を放り出した。
大阪駅を経て帰宅ラッシュで混み合う御堂筋線に乗って心斎橋に向かった。
待ち合わせ場所は大丸の地下食で案の定、家内の買ったフルーツ類などをどっさりと持たされた。
さて、どこで食べようか。
家内はノーアイデアだった。
予約なしでいまから入れそうな店について思い巡らせていると、記憶の淵から「銀まる」のことが突如として浮上してきた。
その昔、かねちゃんに連れて行ってもらったことがある店でいつか家内を連れていこうと思ってかれこれ7、8年が経過していた。
心斎橋で食事するなど滅多にないからちょうどいい。
この機会を捉え、かつて思いついたことを実行しよう。
そう考えてすぐ電話したところ、運良く空きがあって席が取れた。
イルミネーションに美しく照らされた御堂筋をわたしたちは南下した。
大勢の観光客で賑わってごった返し、歩を進めるのは容易ではなかったが、久々訪れたミナミの街をわたしたちも観光しているような気分になって、平日の夕刻、束の間の旅情にひたって様々な人種の入り乱れる人波を楽しんだ。
まもなく法善寺横丁の銀まるに到着した。
個室の座敷に案内されて、家内が店員に相談しながらあれこれと注文していった。
雰囲気よく味もよく、7、8年前に直感したとおり家内は銀まるを気に入ってくれた。
幸いなことに長男も休みが取れるとこの日分かって、家族4人で年末年始を過ごせることになった。
ヘッドマッサも受けていたから家内が上機嫌になるのは当然で、だから食後も引き続き旅情にひたってミナミから心斎橋、本町を経て淀屋橋までイルミネーションの光のなかを歩くことになった。
家内にとってはまさに夢見心地とも言える夜であったはずで、だから帰宅後、階下の風呂場から聞こえてきた歌声は空耳ではなかったように思う。