業務を終えて天満橋から京阪電車を使って京都へと向かった。
三条駅で降り鴨川を見渡しながら三条大橋を渡り、高瀬川を越えたところで寒さがこらえ難くなった。
これぞ底冷え。
大阪の冷え込みとは比較にならなかった。
寒さをしのぐため商店街に入った。
アーケードがあって多少は寒さがやわらいだ。
それにしても外国人観光客の多いこと。
街路をそぞろ歩く数は日本人より多かったのではないだろうか。
待ち合わせまでまだ時間があったから京都市役所近くにある地下街の喫茶店に入った。
店員のお姉さんが初老の客に愚痴った。
働いて一年になるが有給休暇がない。
客のおじさんはさも当たり前といった感じで答えた。
三年働かんと普通は有給なんかないで。
そんな市井の会話を耳にしながら、コーヒー一杯分の時間を過ごした。
そろそろ時間となって屋外へと出て西へと向かった。
店へと向かう一本道は暗く寒く、しかしここが千年の都なのだと思うと、不思議なことにそれさえ趣き深いことのように感じられた。
ところどころにこじんまりとした店構えの料理屋があり、どれも名店なのだろうと思えた。
ちょうど店に着くと家内が向こうから歩いてくるのが見えた。
奈良での用事を終え京都駅を経て烏丸御池駅から歩いてきたのだった。
午後6時、開店と同時に店内へと案内された。
店内はぱっと明るく清潔感に溢れ、屋外の根深いような暗がりの世界とは正反対だった。
店主の牧さんは神戸のホテルオークラを皮切りに下積みを重ね、各地で頭角を現していった。
新米の腕の見せどころはまかない料理で、それを作れば牧が一番との評価が定まって、どこであれいつしか先輩をしのぐ立場へと勝ち上がっていった。
そんなストリートファイトみたいな遍歴を経て、このたび烏丸御池で店を構え、これまた牧が一番との評判を得て、店はあれよあれよという間に予約の難しい名店の仲間入りを果たした。
店主である兄を弟がサポートし、兄弟で店を切り盛りするが聞くところによれば父親が京都ホテルオークラ桃李の料理長とのことであるから、料理家の血筋で言えば彼らは本流も本流のサラブレッドということになるだろう。
噂に違わずこの日の料理も凄かった。
上海蟹、伊勢海老、北京ダック、フカヒレ、イチボなど豪華食材が一品一品披露され、丁寧に供された。
どれも実に上品で美しく、そしてもちろんおいしかった。
締めもまた印象深く、伊勢海老の出汁で作ったラーメンとタイ米と白米が混合されたチャーハンが絶品で、「食事はこうでなくては」と夫婦で幸せたっぷり、京都の夜を楽しむことができた。
店を出て駅への道中、ちょっと覗いてみるとかき氷店のたすきがまだ店を開けていたので迷わず入った。
わたしはビールを飲み、家内はかき氷を食べ、牧定の豪華ライナップの余韻にひたった。
もちろん帰途の車中でも余韻は引き続いた。
また京都の夜を楽しもう。
時にふれ、わたしたちは今後もしばしば上洛することになるだろう。