1
木曜夜、飲み過ぎた。
場所は、グランフロントの白雲台。
白雲台と言えば、鶴橋。
冷麺がめちゃくちゃ美味い。
それがグランフロントにある。
鶴橋とグランフロント、噛み合わせ悪いような気もするが、店は大盛況であった。
異種組み合わせの妙、という奴なのだろう。
グランフロント内に現出した下町風情。
その一角で、肉を焼く。
肉はどれもこれも見目麗しく、一目で上物と分かる色と艶。
分厚く、大ぶり、いかにも見栄えのいい肉を、じゅーじゅー焼いて、頬張っていく。
とろける美味さが脳内を大はしゃぎで走り回り、ドーパミンが花火のように無際限炸裂していく。
相対するのは京山兄貴。
お手合わせは一年ぶりだ。
肉食獣が二頭、肉にがっつく。
サイドディッシュには目もくれない。
ひたすら肉を食べ続け、ビールで流し込んで、更に肉にかぶりつく。
左手には、うら若き女性の一人客があった。
白雲台では彼女も肉食獣。
乙女の本性露わにし肉を焼いて貪る姿を横目にする。
花より団子、団子より肉、ここはそのような公理系の世界であった。
他の誰かなどお構いなし、誰もが肉に夢中で有頂天、どこまでも美味な肉に心奪われその悦楽に溺れ続ける。
ビールはやがてハイボールに代わり、締めにマッコリを二甕飲み干したが、最後まで肉を絶やすことなく焼き続けた。
今年ナンバーワンの美味体験。
そういっていいほどに美味かった。
京山兄貴に紹介され店主女将にご挨拶し店を辞す。
次は家族総出で出陣だ。
星光飲み会でも視察に訪れよう。
食前の祈りは抜きでいい。
2
白雲台の後、記憶はおぼろだ。
キタかミナミのバーでハイボールを飲み続け、フラフラとなったので3軒目へ向かう途上でタクシーを拾って退散した、多分、そのようであったと思う。
翌朝、金曜。
今日は本調子には至らない、午前9時にはそう判断せざるを得なかった。
ツバメ君の予定を調整し、彼に終日運転を任せ西宮方面の役所をまわった。
ツバメ君に託して私は各所で後方支援に徹する。
窓口の後ろで腰掛け様子を見守る。
ベンチで戦況見守る年嵩の控え選手のようなものである。
業務の完遂を見届け、早めに帰宅し横になった。
ごろんと横になる、いろいろな体勢あるなか、これこそが最も安楽であると身に沁みた。
リビングで子供読みさしの奥田英朗の「我が家の問題」を読んでいると、長男が帰ってきた。
私の横に、彼も寝転ぶ。
しばらく雑談。
でかくなっても、子は子供。
いつまでたっては、子は子供である。
他愛のない雑談が、実に楽しく心に残る。
君がいるだけで、私は嬉しい。
3
しじみのスープと湯豆腐と豆の煮物、あっさり加減で食事を済ませ、風呂につかる。
二日酔いの気だるさがゆるゆると癒えていく。
金曜夜だが、家で過ごすのも悪くない。
早めに休もうと支度を済ませて寝室に向かう。
二男がそこで読書していた。
横並びで寝転んだ。
一緒に読書しつつ雑談し、時折、足でつつき合う。
でかくなっても、子は子供。
いつまでたっては、子は子供である。
前日、たまたま駅で遭遇した時も嬉しかったが、何でもない会話交わすだけでもただただ嬉しい。
つまり何でもいいのだ。
君がいるだけで、私は嬉しい。
前夜の酔いがまだ残っていたのだろうか。
はたまた体調すぐれないときにはより一層そうなるのか。
明らかにその夜、幸福を感受する私の感度は増していた。
いずれ冥土土産となるようなとっておきのアルバムコレクションが二つ増えた。
ありふれた場面であったが、鮮明に胸に刻まれた。
収穫大、とても良い日であったと言えるだろう。